翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

飛行機の遅延と乗客の民度

タレントのケンドーコバヤシが、羽田発伊丹行きの飛行機が遅延して大変な目に遭ったとネットのニュースで読みました。

 

強風で飛行機が飛ばず、19時発が20時45分発になるというアナウンス。ところが時間になってもゲートが開かず怒鳴り出す乗客が出現。実際に搭乗できたのは21時半頃で、滑走路が混んでいるのでなかなか離陸できず、機内は騒然とします。追い打ちをかけたのが、深夜になるため伊丹空港に着陸できず関空に降りるという決定。

結局、関空到着は午前2時。交通費として1万円が配られたものの乗客の怒りは収まらずまるで地獄のような状況だったそうです。日本ってこんなに民度の低い国だったのでしょうか。

 

これで思い出したのが、スペイン巡礼出発時の航空機トラブルです。

成田を深夜に出発してヘルシンキで乗り継ぎ、午前中にパリに着く便を選びました。JALに直行便だと夜にパリ到着となるので、不慣れなパリでの移動が不安だったからです。

ところが、乗客の一人が搭乗時にスマホを貨物室に落としてしまい、見つかるまで出発できないことに。空港のゲートが閉まり、再び日本に入国して成田のホテルに泊まることになりました。

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数時間遅れどころか、パリには一日遅れの到着となったのですが、機内は地獄どころかいたって平和でした。

ほぼ満席で、日本人乗客は2割か3割といったところ。ヨーロッパ人にとっては帰国便ですが、日本人乗客は旅の始まり。1週間程度の旅行なら、まるまる一日が無為に終わるのですからダメージは大きいのですが、同調圧力の強い日本人は率先してクレーマーになる人は少ないでしょう。それに英語でキレ散らかすのは日本人にはハードルが高いのです。

フィンエアーの対応は見事でした。CAたちは「これはしかたがないこと」と身をもってしめすかのように淡々としていました。そして、乗客の暴徒化を防ぐためなのか、機長も客室にやってきました。日本人の若い男性が、座席が離れている同行者と話すために立ち上がっていたのですが、「ヤングマン、何か問題でも?」とにこやかに話しかけていました。

トライアスロンの試合を終えた屈強な選手たちもスポーツマンシップを発揮しました。預けていた自転車などの巨大な荷物を再びピックアップしてきびきびと運ぶ姿を見ていると、一般乗客が文句を言う気にもなれませんでした。

 

成田日航ホテルの部屋に入れたのは午前3時過ぎ。気疲れしていたのですが、不安で眠れませんでした。久しぶりのヨーロッパ旅行。最初の一週間の予定を完璧に立てて、予約も済ませているのにどうしよう…。

機長は「キャンセルするなら全額返金する」と言っていました。

「これは、行くなということなのか。家に帰れば、安全で安心な日々が待っている。しかし、ここで尻尾を巻いて帰るわけにはいかない。帰ったら一生後悔するだろう」と思考は堂々巡り。パリのホテルは返金不可の予約だったので、あきらめるしかありません。今からパリのホテルを取り直すべきか、そして、パリからの高速鉄道の予約を変更しなくては。

 

結局、パリでの宿泊をスキップして巡礼の起点であるサンジャンピエドポーに一気に行くことにしたのですが、不慣れなフランスでうまく移動できるのか。

ヘルシンキに向かう機内では、アップグレードされたプレミアムエコノミーの席だというのにまったくリラックスできず、大好きなアルコールも頼まず水ばかり飲んでいました。ただでさえ自信がないのに酔いが残っていたら大失敗しそうだったので。

 

そんながちがちの様子に気づいたのか、フィンランド人CAが話しかけてきました。

「ねえ、あなたの予定が台無しになったんじゃない? 大丈夫?」

思わず「誰のせいでもないから(It's nobody's fault)」と返しました。重要な仕事があるわけでもなく、7週間もかけて何百キロも徒歩で進もうというもの好きな旅なのですから1日ぐらい予定がずれてもどうということはありません。

CAはぱっと明るい表情になり「あなたがそう言ってくれるなんて、本当にすばらしいこと」と返してくれました。

ヘルシンキ到着前の機長のアナウンス。

「不便を耐えて平和的に行動したすべての乗客に感謝。今回は、フィンエアーにとっても初めての事態だった。今後のよりよいサービスのために、ぜひフィードバックを送ってほしい」

ヘルシンキ到着は深夜。空港で夜を明かすのかと思ったら、いったん入国して、エアポートホテルに宿泊。入国審査の列に並ぶ乗客たちの前にも機長とCA達が現れて声をかけてくれました。

「巡礼の道は家から始まる」という言葉があります。スペインの道を歩いたことと同じぐらい、フィンエアーの24時間遅延は意味のあることだったのです。