翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

にぎやかしとしての日本人

スペイン巡礼前に取り組んでいた易の本、帰国したぐらいに出版となるタイミングでしょうか。

実占例はウラナイ8の夏瀬杏子さんにお願いしたのですが、その中に「なかなか結婚しない子供を心配する親からの相談」がありました。易では、本人からの依頼ではないのに占っても当たらないとされるので「子供の結婚について、親としてどういう態度を保てばいいか」で易を立てています。

杏子さんの初稿で「出過ぎた真似をせず単なるにぎやかしぐらいのつもりで」といがあり、「にぎやかし」という単語が斬新で記憶に残りました。

 

ここまで巡礼を続けてきて、日本人の私はカミーノの「にぎやかし」にぴったりだとつくづく思うのです。カミーノの楽しさとして多くの人が挙げるのが「普段の生活では決して体験できない世界中から来た人たちの出会い」。といっても大半は欧米人で、アジアからの巡礼者は少数派です。

 

スペイン語で「星」を意味するエステーリャという街のアルベルゲでこんなことがありました。

少し長めの距離を歩いて疲れていたので、ベッドの横に書かれた番号をぱっと見て下の段のベッドに荷物を広げてしまいました。後から来た女性が、下の段が自分のベッドだと言います。アルベルゲの二段ベッドでは下の段の方が人気があります。上の段は乗り降りが大変だし、寝返りひとつ打つのも気を使うから。「ごめんなさい、まちがえました!」とあわてて荷物をまとめようとすると寛大な人で「まあ、このままでいいわ」と上の段に替わってくれました。

 

翌朝、改めてお礼を言いました。

「昨日は本当にごめんなさい。あなたから受けた親切を直接お返しできないから、これから巡礼で会った誰かに親切にすることでお返しにしてもいいですか? 仏教には輪廻(リインカネーション)という言葉があるけれど、私はこのカミーノで善意を循環させようと思っています」

アメリカのアリゾナ州から来たエレインという女性でした。エレインは私をハグして一緒に来ている仲間にこう呼びかけました。

「みんな、聞いて! 日本から来た私のお友達がすばらしいことを教えてくれたの!」

アリゾナ州に帰ってからも、土産話にしてもらったら嬉しい。日本人として「にぎやかし」役をしっかり務めました。

夕食の席でよく「同じテーブルで食べましょう」と誘われるのは、「カミーノで日本人の仏教徒と会った」という思い出作りを求められているからかもしれません。カミーノを歩くシニア層には日本凋落の情報も伝わっていないようで「日本はすごいね。経済的に成功し、精神性も高い」とほめられることもありますが、国力がこのまま衰えてもユニークな立ち位置の「にぎやかし」の国でありたいものです。

 

そして、こういう会話が成立するのもカミーノならでは。パリの地下鉄だったら感激してハグしている隙に財布を盗まれるのがオチでしょう。

 

レオンの街の十字架と巡礼者の像。