翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

カミーノ・ファミリーの罠

占いの学校で「相談される悩みの大半は人間関係。貧困の悩みなら占い師に高額な鑑定料を払うべきではないし、病気の悩みは病院に行ったほうがいいから」と教わったこともあります。夫婦や子育ても広義の人間関係であり、大きな喜びがもたらされる反面、悩みも深くなります。

 

そうしたわずらわしさから離れるためにカミーノに来たのだから、一人で淡々と歩くつもりだったのですが、自然に仲間や顔見知りが増えました。

オリソンの山小屋で知り合った人の大半は私よりずっと先を歩いているはずですが、例外が韓国人のスンニ。同じアルベルゲにに泊まることが続き、意気投合しました。スンニは3ヶ月かけて歩くので私より後を歩いていますが、今ときどきLINEでどこを歩いているか報告しあっています。

次がカナダ人のサラ。オランダ人のボランティアが経営するアルベルゲで一緒の部屋になり、その後もバルや休息所で偶然会うことが多く顔なじみに。

深く話すことはないけれどちょくちょく見かけるのが、南アフリカから来たカップル。ゆっくりとした足取りなので私と進み具合が合うのでしょう。ここ数日はカナダ人のアンと同じアルベルゲになることが多く、意気投合し夕方からビール、夕食でワインを飲むというアルコール漬けに逆戻り。アンは「eのつくアン」です。若い頃に日本をバックパッキングで旅して、何度も同じことを言われたそうです。

一度きりの出会いなら、数えきれないほど。意外なところで再会することもあります。街を散策していたら、先に行っているはずの巡礼者とばったり会うことも。疲れたり足を痛めたので休息しているところに私が追いついたのです。

 

先日はカリフォルニアから来た日系二世のユウコさんと知り合いました。ご両親は日本生まれでカリフォルニアで結婚してそのまま移住。ユウコさんはおそらく私と同世代。仕事を引退して夫をアメリカに残して一人でカミーノを歩いているのも共通しています。

「日本人の夫は手がかかるというけど、アメリカ人だってうちの夫みたいに母親に甘やかされて家事がまともにできない男が多いのよね」という愚痴を完璧な英語でさらっと口にします。カリフォルニアで育てばネイティブの英語が身につくのかとうらやましくなりましたが、ユウコさんは日本語をほとんど話しません。日英バイリンガルでは中途半端な語学力になるとご両親が考えたのかもしれません。

 

「カミーノは夫と義母から離れるいい機会。それなのに、カミーノ・ファミリーといのうのがあるらしい」とユウコさん。

世界各地から別々にやって来た巡礼者が意気投合し、同じ宿に泊まりながら同じ日にサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す仲間となるのです。一見、すばらしい話ですが、歩くペースや体力は人それぞれだし、宿や食事の好み、旅にかける予算も違うはず。カミーノ・ファミリーという美しい言葉に魅惑されとんでもなく苦しい旅になることだってあるはずです。

カミーノを描いた映画『星の旅人たち』では4人が旅の仲間となりますが、マーティン・シーンが一人きりで延々と歩くのでは絵にならないからそういう設定にしたのではないでしょうか。

 

多くの出会いがあるのに、人間関係のわずらわしさが皆無なのは、カミーノを離れればもう会うことがないだろうから。ソウルに行くことがあればスンニに連絡するかもしれませんし、ユウコさんが東京に来れば再会するかもしれませんが、あくまでも一過性です。

 

現実の人間関係もカミーノのようだったら、どんなに楽でしょう。人生を長い旅だと思って楽しい時間だけを共有してあとは適当に適当距離を置いたり、風通しのいい関係を目指したいものです。

 

こういう平坦な道ばかりならいいのですが、山あり谷あり。それでも旅を続けられているのは、自分のペースで進んでいるからです。