翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

ピレネーを越える

ついにピレネー越えの日を迎えました。

オリソンの山小屋の朝食は7時から。テーブルに大きなボウルがセットされていて、朝からこんなにたくさんスープを飲めないと思ったらカフェオレ用でした。フランスに別れを告げ、国境を越えてスペインに入ります。

 

朝から雨でしたが、晴れて虹が出る瞬間もありました。

同じ時刻にスタートしても、欧米人とは脚の長さが違います。韓国人のスンニも歩くのが遅くというので一緒に歩くことになりました。といってもスンヒは瞑想が好きでウォーキングメディテーションも実践しているので、お互いのスピードが異なって離れても気にならず、休憩で合流します。

細かい霧雨の中、雄大な景色を眺めながら歩いているとだんだん意識が飛んで、自分がどこにいるのかさえわからなくなります。そんな浮遊状態で歩いていると、後ろから「待って!」という声が。コネチカットから来たクリスティンです。

「アキ、あなた間違った道を歩いている!」

意識が飛んで矢印をよく見ていなかったのです。オリソンまでは一人だったので慎重だったのに、仲間と歩いているという安心感から油断していました。健脚のクリスティンがわざわざ追いかけてきてくれて、本当にありがたいことでした。

 

現実世界では、人の不幸は蜜の味とばかり、誰かが間違った選択をしても高みの見物をしがちなのに、やはりカミーノは特別です。何度も歩いたり一年に一度は歩くという人が多いのは、俗世をちょっと離れることができるからかもしれません。後半の道もトラップが多く、分かれ道に来るたびにまよっていたのですが、経験者のマイクが的確な指示を出してくれました。

 

クリスティンのおかげで無事にピレネーを越えました。もう一度ちゃんとお礼をいいたかったのですが、ロンセンバーリェスのアルベルゲは200人ほど泊まる巨大施設。結局、再会できませんでした。

受けた親切を直接返すことができないのなら、誰か別の人に親切にして、善意をまわしていく。このカミーノで、ささやかでも善意の循環を実現できるといいのですが。

ピレネーを越え、これだけで旅の目的を果たしたような気がしますが、まだあと40日以上あります。

 

ピレネー越えにこんなにこだわったは「ピレネーの地図」という話が好きだから。

アルプスで遭難したハンガリー軍の偵察隊。隊員の一人が地図を持っていたので冷静になり野営して吹雪をやり過ごして無事に下山。ところが、地図はアルプスではなくピレネーのものだったのです。正しいものではなくても、とりあえず指針があれば人間はパニックにならず落ち着いて行動できるという教えです。

 

bob0524.hatenablog.com

 

現代の旅は地図アプリもあるし、ネットでリアルタイムの情報も手に入ります。それでも異国の地を一人で7週間歩くとなると、「なぜこんなことを計画したのか」と不安になることもありました。

それでも、何とか出発できたのは「ピレネーの地図」の逸話があったからです。ハプニングが起こって計画通りいかなくても、最終的にはなんとかなると信じて歩きたいものです。

 

荷物の軽量化のために、地図はスマホで撮影してきました。青いルートがナポレオン・ルートです。上にあるのがサン・ジャン・ピエ・ド・ポー、途中に赤い丸をつけているのがオリソンの山小屋、一番下がロンセンバーリェスです。