翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

「縦の旅行」ができているか

引き続き玉村豊男の『旅する人』からのエピソード。

日本にやってくる外国人観光客のツアーガイドのアルバイトを始めた時、先輩からこんなアドバイスがあったそうです。

 

要は、金魚の入った金魚鉢を、水もこぼさず金魚も殺さずにA地点からB地点に運ぶことなんだよ。

 

バス一台をまかされ、外国人観光客30~40人をまとめてお世話。観光案内でなく食事や買い物などすべての行動の相談相手になります。

せっかく日本まで来たからあれもこれもと詰め込んでも、客にとっては有難迷惑。特にアメリカの観光客は高齢者が多いので疲れると体調を崩しがち。とにかく到着した空港から出発する空港まで平穏無事に過ごさせるのが最適なサービスだというのです。

 

これは日本人の海外パックツアーも同じようなもの。異国は言葉も通じないし危険なこともあるけれど、添乗員と一緒にバスの中にいる限りは無事に旅ができます。玉村豊男はサファリツアーのライオンバスにたとえています。

 

 もしも本当にライオンの姿をこの目で見、その存在を感じようとするのなら、少なくともバスから降りてライオンたちがいるのと同じ平面に立ち、ライオンたちが吸っているのと同じ空気を吸わなければいけないだろう。しかし、それは危険である。人々はそれよりも、安全で、快適な、日頃慣れ親しんでいる環境にできるだけ近い空間の中に身を置きながら、ただライオンを間近に目撃したことを証明する記録を持ち帰りたいと願っているだけなのである。

 

金魚鉢やライオンバスから外に出る旅を常に目指してきました。基本的に一人旅で、交通機関や宿も自分で手配します。

 

スペイン巡礼の道標の上にいた猫。

昨年秋の7週間にわたるスペイン巡礼は、私にとって旅の集大成のような体験でした。アルベルゲ(巡礼宿)やバルで誰かと一緒になることはよくありましたが、基本的に一人で歩き通したことで大きな充実感を得て、多くの出会いに恵まれました。

 

しかし、見聞を深めたようでいて、私は同じところをぐるぐる回っていただけではないかという気もするのです。

 

先日の関東地方の大雪。高速道路が通行止めになって、トラックの運転手さんたちは20時間近く車内で待機しているとニュースで伝えていました。雪で交通が混乱するからといって、契約の理由などで休むという選択は許されないのでしょう。室内で何不自由なくぬくぬくと過ごしているのが申し訳ないのですが、現代の快適で便利な生活はこうした人々の働きによって支えられていて、こんな状況にならないと可視化されないのです。

カズオ・イシグロが「地域を超える『横の旅行』ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かを知る『縦の旅行』が必要だ」と述べています。近所に住んでいてもまったく世界に住んでいる人のことを知るべきだと。

世界一周をするよりも、日々起こっていることの背景に思いを馳せるほうが、深く世界を認識できるのかもしれません。

 

幅広いジャンルの読書も一つの助けとなります。

bob0524.hatenablog.com