翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

狂わずにいるためには、狂わなくてはいけない 『統合失調症の一族』

統合失調症の一族』、副題は「遺伝か、環境か」。あまりにも衝撃的な内容でした。

 

表紙のビジュアルにも圧倒されます。階段の一番上には父のドン、そして母のミミ。長男から順番に九男まで並び、長男が抱いているのは十男です。さらに驚くのは、この下に長女と次女が生まれているのです。合計十二人。

夫のドンは避妊や堕胎を禁ずるカトリックで、妻のミミもプロテスタントから改宗してカトリック。長男のドナルドは1945年生まれで末っ子のメアリーは1965年生まれでアメリカのベビーブームと重なりますが、それにしても十二人は多すぎます。

 

五人目が生まれた頃から、親族から「なぜそんなにたくさんの子供を?」としきりに問われるようになりましたが、ミミは「多くの子供を産み育て、それを楽々とやってのける母親として知られる」ことを選んだのです。

姑は「ミミが息子の人生を牛耳っている、我が家のカトリック信徒のお株を奪おうとしている」と非難されても「夫は子供たちのおかげで幸せそのものです」と返答。

 

なぜ彼女がこれほどたくさんの子供を産んだのかの答えは読み進むうちに明らかになっています。

一つは喪失感を埋めるために子供が必要だったから。自分の母親よりも多くの子供を産むことで、自分のほうが彼女より上なのだと優越感にひたります。「子供の数が増えるにつれて、新しい自分がしっくりくるようになった。長年失望し続けていた自分とは違う、新しい自分」と思うようになります。

夫のドンは第二次大戦で日本軍と闘いいました。1945年に沖縄近くに停泊していた船上で左右の船が神風特攻隊によって撃沈されるのを目撃。ひたすら戦友たちの遺体を海中から引っ張り上げながら、なんとか生き延びます。「たくさんの子供が欲しい」という妻に反対しなかったのはこのためでしょうか。

 

ハンサムで知的な夫は軍を除隊後、責任のある地位に就いて地元の名士に。息子たちはスポーツや芸術に秀で、フットボールやホッケー、ロックバンドで活動します。

しかし、ミミが描いた理想の生活が実現したのも束の間でした。長男のドナルドを筆頭に息子たちが次々と異常な行動を起こすようになります。息子たちが狂ったのは、親が狂わないでいるために次々と生まれてきたからでしょうか。「狂わずにいるためには狂わなくてはいけない」というBTSの「ON」の歌詞を思い出しました。

bob0524.hatenablog.com

 

少子高齢化が進む日本では十二人の子供を産んだ母親は表彰ものですが、子供たちの半分が統合失調症と診断されたとなれば、「そんな子供は産むべきではなかった」という考える人もいるでしょう。しかし、健全で社会に貢献できる子供しか産んではいけないとなると、少子化はますます進みます。

遺伝的なリスクのない家系なんてほとんどないのでは。リスクを見込んで出産した女性を支える社会であってほしいものですが、今の日本にはそんなゆとりはないという悲観的な気持ちにもなります。

 

 

ガウディが設計したスペイン・アストロガの司教館。おとぎ話の城のようで、外装、内装ともに目を奪われますが、建物が華麗なだけ闇の部分も多いのだろうと邪推してしまいます。