スポーツクラブのズンバやヒップホップのレッスンが楽しいのは、単なる趣味だから。インストラクターになりたい、あるいはプロのダンサーになりたいという野望を抱いている人にとっては、目標が実現できなくても、踊っている瞬間を純粋に楽しむことはむずかしいでしょう。
そんなことを思ったは、BTSのダンスを見ているから。たとえば、アメリカの「ザ・トゥナイト・ショー」。BTSが世界的なアーティストに成長したお祝いに、ニューヨークのグランド・セントラル駅を舞台として用意したのです。
バックダンサーたちはブロードウェイのミュージカルのオーディションを受けるようなレベルではないでしょうか。外国人という下駄をはかせてもらわなくても、世界最高峰レベルのダンサーたちを従えて圧巻のパフォーマンスを見せるBTS。ついにアジアのグループもここまで到達したのです。
『BTS、ユング、こころの地図』によれば、この曲のテーマはレジリエンス。ストレスや逆境にさらされても、立ち直っていく力です。傷つき苦しむことは自然な反応ですからしかたがありません。それでも前に進んでこうというメッセージが込められているそうです。
リーダーのRMが「ONの歌詞のような人生を送りたい」と語っているのを聞き、歌詞の意味が知りたくなりました。英語と韓国語なのがもどかしいのですが、だいたいこんな内容。
「成功して有名になり、世界を駆け回るようになったけれど、影も大きくなった。体はふらつくし、足元を見ると影も近づいてくる。狂わずにいるためには、狂わなくてはいけない。この二つの世界に飛び込むしかない。痛みは血と肉となり、転んでもまた起き上がる」
痛みを受け入れて生きる。まさにレジリエンスです。
正気だからこそ社会に適応しているけれど、それだけでは十分ではありません。創造性や想像力のためには、無意識との接点を持たなくてはいけないというメッセージが「狂わずにいるためには、狂わなくてはいけない」という歌詞の意味です。
スペイン巡礼で歩いた森の道。他の巡礼者が視界に入らず一人きりで歩く時間がありましたが、最も怖かったのがこの道。前夜に泊まった巡礼宿の主人が「森の狼が巡礼者を見ている」と言ったのはジョークかもしれませんが、パスポートと現金、クレジットカードをウエストポーチに入れて歩いているのですから強盗に襲われたらひとたまりもありません。
キリスト教徒でもないのに異国の地を7週間歩くという狂ったことを始めた自分を呪いたくなりました。しかし、この体験があったからこそ、老いを迎えるという困難な課題を前に狂わずに済むかもしれません。