気がつけば11月上旬が過ぎつつつあり、昨年秋の7週間にわたるスペイン巡礼から帰国して1年以上たちました。
日々記憶は薄まっていますが、ふと思い出すエピソードもあります。
サンティアゴ・デ・コンポステーラ手前100キロのサリアで1回目の巡礼を終えることにして、マドリードまでの鉄道切符を予約。サリアまで歩く最終日はちょっと長めの移動となったので、日の出前に出発。スペインは夏でも日の出が遅くて午前7時を回っても暗いのです。暗くて巡礼路を示す黄色い矢印がよく見えず、スマホに入れた巡礼アプリの地図を頼りに歩き出しました。そこに後ろから光が。ヘッドライトを付けた巡礼者です。地図アプリを入れていないらしく、道が合ってるかどうか聞かれました。
地図を見せて、この道で大丈夫と答えると「暗くて足元が危ないから後ろから照らしてあげよう」と私の数メートル後を歩いてくれたのです。
15分ほど歩くうちに日が出て、黄色い矢印も見えるようになりました。
「私は歩くのが遅いから、もう先に行って大丈夫。あなたの明かりでずいぶん助かった」
「こちららこそ、地図で道を確認できてよかった」
お互いにお礼を言い、ブエン・カミーノ(良き巡礼を)と声をかけ合って別れました。
お昼過ぎに宿に着いて荷解きをしていると「やあ! 今朝、協力して歩いたね」と声をかける人がいます。暗くて顔がよく見えなかったのでまったく気が付かなかったのですが、アジア人は少数だし、後ろから姿形を見ていたので向こうはすぐにわかったのでしょう。
巡礼者同士、自然な形で助け合っていた日々を象徴するような出来事です。その日で巡礼を終えたので再会することはなかったし、名前もどの国から来たのかも知りませんが、だからこそ、心に残っています。
そんなことを思い出したのは、よかよかさんのお友達の素敵な話を読んだから。
もう会うこともない見知らぬ人との温かい交流。「お礼もできなくて」と恐縮する相手に「お礼ならどこかの誰かに返したらいいよー」という言葉をかけるのも素敵です。
こういうことが、カミーノではごく普通に行われていました。
人に迷惑をかけてはいけないと育てられた日本人は、見知らぬ人からの親切を受けるのが苦手。そして、若くなく、かといって手助けが必要なほど老いてもいない中高年の女性はあまり顧みられることのない存在です。そんな日本からスペインに旅立ち、誰でも受け入れられる世界があると知ったことはカミーノを遠く離れた今も生きる糧となっています。
時には、牛に行く手を阻まれることもありました。のんびり待っていれば、牛追い役の犬が上手に誘導してくれます。