スペイン巡礼は最初の1週間だけ予定を立て、パンプローナまでの宿も予約しました。パンプローナからの旅程も作りたくなりましたが未定にしておきます。カミーノ掲示板で「全行程の宿を予約しても、途中で想定外のことが起こればドミノ倒しのように崩れてしまう」というアドバイスがあったからです。足が痛くて歩けなくなったり、外出をためらうような悪天候の日もあるかもしれません。
勤勉な巡礼者は夜が明ける前の暗いうちから歩き出すそうですが、早起きが苦手だし、暗い道では迷いそう。スペインの夏の日の出は意外と遅くて午前7時ごろ。8時に出発するとして、シエスタの時間となる午後2時までにはその日の宿に着いておきたいところ。休息しながら進むので一日に歩くのは最大で5時間程度。1時間ほど歩いてとなりの村に到着し、そのままそこに泊まるというのんびりした日もあるでしょう。
当初はサンティアゴ・デ・コンポステーラをゴールとしていたのですが、サリアからのラスト100キロが大混雑と聞き、サリアまで行けばいいと計画を変更。サリアに到達できずレオンまでになるかもしれません。マドリードまで鉄道かバスの便がある街なら、どこで終えてもいいのです。
人手が足りなくて困っている宿があれば、手伝いを申し出てオスピタレイラとして働き始めるかもしれません。10月になれば巡礼者の数も減るから、私も安心して帰国できます。
「7週間、スペインに行く」と言うと、「そんなに長く!」とびっくりされますが、『食べて、祈って、恋をして』では、エリザベス・ギルバートは4か月×3か国で1年間の旅をします。
スペインの計画を行き当たりばったりにしたのは、この本の影響もあります。
当初のエリザベスの予定はアシュラムに6週間滞在し、残りの期間はインド中を旅してまわるというものでした。しかし、結局は小さな村のアシュラムに4か月まるまる滞在することになったのです。
宿の掃除や洗濯をするオスピタレイラにあこがれているのも、エリザベスがアシュラムで最初に割り当てられた仕事が寺院の床磨きだったからです。
本や映画に影響を受けるのはいかにも軽薄ですが、そのほうがずっと楽しい。
「計画を立てない」で思い出したのが、映画『パラサイト 半地下の家族』。
半地下に暮らす一家の父ギテクは、韓国経済の激しい波に押し流され、チキンや台湾カステラの店を開いては閉じ、仕事を転々としてきました。新しい仕事を始めるたびに「今度こそいい暮らしを」と計画しましたが、実現したことはありません。
息子のギウにはこう言います。
「絶対に失敗しない計画は何だと思う? 無計画だ。ノープラン。なぜか? 計画を立てると必ず、その通りにいかない。だから無計画なほうがいい」
旅や巡礼は人生にたとえられますが、勉強や仕事は計画を立てられても、生老病死は人間の思うようになりません。死後の事務処理委託ならできますが、死期や死因は予測できず、ノープランで生きるしかないのです。
メニューの写真を外に張り出してあるので入ってみたお店。味のあるおじさんが店を仕切っていて、日本人だとわかると日本語であいさつしてくれました。
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を観てからキンパをよく食べるようになりました。上の店で注文したキンパ。日本の巻き寿司と異なり、酢飯は使わずご飯にゴマ油を塩を混ぜています。ニンジンやゴボウ、沢庵など歯ごたえのいい具が中心で、生ものは使いません。
『パラサイト 半地下の家族』の母親役を演じたチャン・ヘジンは役作りのために15キロ増量したそうです。『愛の不時着』の女社長と同一人物とはとても思えませんでした。今や肥満は貧しさの象徴。貧困家庭の妻を演じるためには太らなければいけない時代です。
いくらゆっくり進むといっても歩くことがメインの巡礼の旅ですから、太らずに帰ってくることだけは絶対に失敗したくありません。