スペイン巡礼を思い立ったのは、長年続けてきた週刊誌の連載の打ち切りを告げられたタイミングでした。巡礼路を歩きながら編集者と打ち合わせて原稿を書き校了までするのはいくらネットがあるといっても無理があります。
行きたくても無理だとあきらめていたのが、昨年の秋で連載は終わりました。表向きの理由はウクライナ侵攻の影響による紙代の高騰と聞きましたが、長く続けて内容もマンネリ化していたのでしょう。週刊朝日はすでに休刊になり週刊誌自体がいつまで続くかわかりません。もっと遅く生まれていたら、活字のライターとして働き盛りに収入の道が閉ざされていたわけですが、幸いにしてリタイアの年齢と重なりました。
しかし、高齢化する日本では60代どころか70代や80代でも働き続けるのが当たり前の時代に。孫の世話をして、共稼ぎの子供夫婦のサポートをしている人もたくさんいます。
社会とのつながりのために、何か仕事をしたほうがいいのではないかと思います。
すぐにできるのは日本語教師。外国人留学生が戻ってきて、学校から復帰の要請がありました。非常勤講師だからシニアの仕事としてはいいのですが、3年間続けてみて自分には向いていないことがわかったので、戻るつもりはありません。
占い鑑定の仕事も高齢者向きですが、あまり幸せでない人の話を聞いてばかりいると悪運を引き寄せてしまいそうなので気が進みません(一流の占い師は、そういう運気のコントロールができるのでしょうが、私には無理)。
だったら、特別な技能がいらないパートの仕事か何か? 今は人手不足だからまじめさをアピールすれば60代でも採用されるかもしれません。
ふと思ったのが、巡礼が気にったら、オスピタレイラになったらどうだろう…。
アルベルゲ(巡礼宿)のスタッフは、オスピタレイロ(男性)、オスピタレイラ(女性)と呼ばれ、基本的にボランティアです。公営のアルベルゲは所定の講座を受けなくてはならないそうですが、私営のアルベルゲならオーナーがOKすればその日から寝場所と食事が支給されて働き始められます。
毎日、歩き疲れた巡礼者を迎えて世話をして、朝になったら送り出して部屋を整える。居ながらにして世界中の人と出会える魅力的な仕事らしく、世界中からボランティアが集まっているようです。わざわざスペインまで行って掃除や洗濯をするなんてちょっと酔狂ですが、そこがいいのでしょう。
先日観た映画『To Leslie トゥ・レスリー』ではアルコールに溺れてホームレスになったレスリーが立ち直るきっかけとなったのは、モーテルの住み込みの仕事でした。
この映画を観て「レスリーは私だ」と強く感じました。運命の歯車が少し狂えば、私もレスリーのような境遇に陥っていたかもしれません。
人間は社会的動物ですから、社会に必要とされていないという疎外感は、人をむしばみます。私のように承認欲求の強い人間には耐えがたいことです。オスピタレイラにはならないにしても、スペインから帰ってきたら何かやることを考えなくては。
那覇のタオル店の猫店長、みーたん。行くたびにタオルを買ってしまいます。猫でさえ働いているのに、人間の私が無為に過ごすわけにはいきません。