ローマ時代から都市として栄えたアストルガは、ガウディが手がけた宮殿もあり、スペイン巡礼のハイライトとなる街の一つです。アルベルゲもたくさんあり、選んだのがSo Por Hoje。ポルトガル語で「今日一日だけ」という意味です。
オスピタレイラのパトリシアはブラジル人で、カミーノを歩いたのは2018年。最愛の父を亡くした悲しみで毎日泣きながら歩いたそうです。どんなにつらくても「今日一日だけは歩こう」と自分を奮い立たせる日々。巡礼によって心の傷が癒えたからこそ、次は巡礼者のためにアルベルゲを開くのが自分の使命だと思い立ちました。
私のカミーノもそろそろ終盤に近づき、パトリシアの「今日一日だけ」という言葉が心に沁みました。
「あと何日歩けばいいのか」「日本に帰るまであと何日」なんて数えるのをやめて、ただその日の距離を歩いて宿に着く。初めて会う人もいればなつかしい人に再会することもありますが、その日だけの交流を楽しむ。素敵なバルがあったりおいしい料理が出たりしても、その日の楽しみとして味わい尽くす。宿なしでは困るので明日の宿は予約していますが、明日の道がどんなに険しくても、今日は考えない。
若い頃は長期目標を立てて着実にステップを重ねていくのが正しい生き方だと思っていましたが、人生の折り返し地点をとっくに過ぎて終わりが見えてきました。明日を不安に思ったり期待しすぎるのではなく「今日一日だけ」で生きていきたいものです。
パトリシアのアルベルゲではドアを開けた瞬間から、温かい歓迎が始まります。
「今日は、ここがあなたの家だと思ってね」
夕食はブラジルの家庭料理。
白いご飯と肉と豆を煮込んでフェジョアーダ。日本人には食べやすい料理です。
パウロ・コエーリョゆかりのアルベルゲでも出ました。
この日は6人で食卓を囲みました。この宿はとことん体験型で、パトリシアが全員の写真を撮って送ってくれます。手前の私が日本、お隣は台湾、そしてオーストラリア、アメリカ、ドイツ、ブラジル。まさに今日だけのメンバーです。
日本人と台湾人が英語で話し合っているのが残りの4人には不思議だったようです。「台湾と日本はとても近くて、私たちの外観も似ているけれど、マンダリン(中国標準語)と日本語は、話し言葉では全く異なる」と説明しました。