昨年の七週間にわたるスペイン巡礼では、ゆっくりしたペースだったこともあり、身体面での問題は起こりませんでした。
今年はサリアから五日間だけということで、すっかり慢心していました。三日目の終盤でひどく疲れてやっとのことで宿に到着。夫とは歩くスピードが異なるので、別々に歩き宿で合流することにしています。
一晩寝れば回復すると期待していたのですが、歩き続けて二時間ほどたつと、ふくらはぎが痛くなってきました。
そのタイミングで聞こえてきた日本語。二人組の女性です。沖縄から来たそうで、私とほぼ同年齢。話が弾みバルでも一緒に休憩し、足の痛みを忘れるほど楽しく過ごしました。二人は無理せずマイペースでゆっくり進んでいるようで、タクシーを利用することもあるといいます。厳密に言えば私もフランス国境から完歩しているわけではありません。
沖縄の二人組はバルがあるたびに休憩しているというので、次のバルの前で別れました。彼女たちよりかなり長めの距離を歩かなければならないのですから。
それからそのうち、ふくらはぎがだんだん痛くなってきました。これはまずい。宿はまだ7キロほど先ですから1時間半以上はかかります。気力を振り絞って進もうとしても速度は遅く歩き方が変になり、「大丈夫?」と声がかかります。スマホを取り出して「地図をチェックしているところです」と言い訳するものの、ずっとそう言い続けるわけにもいきません。
なんとか最寄りのバルまでたどり着き、とりあえずカフェコンレチェ。少し休めば回復するかときたいしたのですが、席からカウンターへ行くにも足を引きずるような状態です。
結局、タクシーを呼んでもらうことにしました。巡礼は自分の足で歩くのが原則ですから、顔つきがものすごく暗かったのかもしれません。店の女性は「よくあることだし、みんなやっている」とお店の電話ではなく自分のスマホを取り出して連絡してくれました。友達にかけているかのようで、もしかして白タク? ともかく、贅沢は言ってられません。
カフェコンレチェをおかわりして20分ほど待ったところで声がかかり、店の前に停めらた車に乗車。やはりタクシー表記はありませんでしたが、とても親切なドライバーでした。
徒歩の巡礼者たちをぐんぐん追い越して10分程度で予約していた巡礼宿に到着。元気なら、なんということもない距離ですが、この時の状態ではとても歩けない距離でした。
とうとう体が反旗を翻したという感想。同年代の友人は「昔のように体が言うことを聞かなくなった」という愚痴をよくこぼしていましたが、私はあまり実感したことがありませんでした。若い頃みたいに仕事で徹夜をすることはなくなりましたが、週に5回のスポーツクラブ通いを続けています。しかしいつまでもそんなわけにはいかないということでしょう。巡礼の目的の一つが、老いを受けいることでしたから、足の痛みで歩けなくなるのも貴重な体験だったと考えることにしましょう。
翌日は巡礼最終日。なんとかサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂まで自分の足でたどり着きたいと祈るような気持ちで歩き通しました。自分の体に対してこんなに謙虚な気持ちになったのは初めてのことです。