翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

愛は負けても親切は勝つ

スペイン巡礼にはすぐに適応できたため、帰国してから日本での生活に戻るのに苦労する日々が続いています。

たとえば、元同級生から「久しぶりにお茶でもしませんか」という連絡があると、なんだか面倒だと感じてしまいます。マルチ商法の勧誘? あるいは占いをやっていることを聞きつけて「友達だからタダで占ってもらえるかも」と思っているのではと勘ぐってしまうのです。

 

スペイン巡礼で会う人は何の下心もなく、次に会える機会があるかどうかもわからないけれど、善意で接してくれる人ばかりでした。親密になれば連絡先を交換することもありましたが、ほとんどの人とは一期一会。いつも助け合おうとしたし、迎えてくれる現地の人たちも巡礼者には親切でした。

 

巡礼宿にはお昼ごろに着いて、シャワーと洗濯を終えて、同宿者と交流したりバルに飲みに行ってもたっぷり時間があるので読書も進みました。kindleに入れたのに読むのを先延ばしにしていた翻訳小説が旅先の気分にぴったり合いました。

 

たとえば、カート・ヴォネガット・ジュニアの『ジェイル・バード』

『愛は負けても親切は勝つ』というフレーズは、まさにスペイン巡礼を象徴しています。

キリスト教の説く愛はよくわからないけれど、巡礼で出会う人は親切な人ばかりでした。原文は"Love may fail, but courtesy will prevail.

”courtesy”は礼儀作法というイメージがありますが、漠然とした親切を示す"kindness"ではなく、巡礼という限られた場所での親切は"courtesy"がふさわしいのかもしれません。

 

そして、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』。

 

易をテーマにした『高い城の男』は易の本でも紹介しました。

 

あなたがどんな姿をしていようと、あなたがどこの星で生まれようと、そんなことは関係ない。問題は、あなたががどれほど親切であるかだ。この親切という特質が、わたしにとっては、われわれを岩や木切れや金属から区別しているものであり、それはわれわれがどんな姿になろうとも、どこへ行こうとも、どんなものになろうとも、永久に変わらない。

 

スペイン巡礼では、人種や国籍、性別、年齢、容姿で差別されることはまったくありませんでした。むしろ、遠い東洋から来た巡礼者として尊重されることばかりでした。そして、スペイン巡礼経験者の女性が巡礼に不要な物に真っ先に挙げていたのが口紅だったことからわかるように、日焼け止めを塗るぐらいで歩いている女性ばかり。

 

サリアで泊まったアルベルゲ(巡礼宿)。

先着順にベッドを選び、シャワーと洗面所は譲りあって使います。

オスピタレイロに「午後3時まで市場が開いていて、おいしいものがたくさんあるからぜひ行ったほうがいい」と勧められてガリシア名物のタコをテイクアウトしました。タコが名物の証の隣、神戸市垂水区出身が実家だったのでスペインのタコも食べたいと思っていたのです。

 

ビールとタコを堪能していると、オスピタレイロから「ソースがおいしいから、パンとからめて食べて」とパンの差し入れが。

どうしてこんな私にみんな親切にしてくれるのだろうとびっくりすることばかりだったスペイン巡礼。次は私が親切を返す番なのでしょうが、殺伐としたした東京の暮らしに慣れなくて、またスペインに行きたいとばかり思っています。