スペイン巡礼の本で強く勧められていたフランス映画『サン・ジャックへの道』。
この映画を観ることができただけで、スペイン巡礼を思い立った価値があったと思うほどのおもしろさでした。
「サン・ジャック」は聖ヤコブのフランス語。サンティアゴ・デ・コンポステーラに遺骨が祀られているとされています。英語なら「セイント・ジェイムズ」です。
フランス人9人がル・ピュイからサンティアゴ・デ・コンポステーラに巡礼の旅をするのですが、中心となるのは中年の兄、妹、弟。
ものすごく仲の悪い3人で、普段は近づかないようにしているようす。
老母が亡くなり100万ユーロの金融資産と別荘が遺されました。遺産はそっくり慈善団体に寄付するが、もし3人がそろって巡礼に出かけるなら、均等に相続させるという遺言。
長男のピエールは拒否します。大会社の社長でたっぷり資産があるので遺産は不要。険悪な妹と弟と旅をするなんて真っ平。仕事は忙しいし、心労も多く体調もすぐれない。とても巡礼なんか出られないというのが理由です。
彼らが出発するル・プュイからサンティアゴまでは約1600キロあり、徒歩だと2か月以上かかります。
高校で国語(フランス語)を教えている長女のクララも行きたくありません。資本家の兄とは違い、かなりの左派らしくカトリックに強く反発しています。
「巡礼なんて中世の迷信。聖職者による青少年への性的虐待もはびこっている」
たしかに、国連人権理事会はジャニーズだけでなく、もっと大規模なカトリックの実態も明らかにするべきだと思います。
そして「フランスの学校ではイスラム教徒の女子学生のブルカを禁止しているのに、教師の私がカトリックの巡礼に行けるわけがない」と、教育界のダブルスタンダードにも手厳しい。
しかし、クララの夫は失業中。一家の財政を考えると遺産は欲しい。しかたなく参加を表明しました。
次男のクロードは絶対に参加しなくてはなりません。アルコール依存症で妻に去られ、失業手当で暮らしているのですから。
下の二人が行くののだから、長男として参加するしかないと説得され、しぶしぶピエールも巡礼に出発することになりました。
クララは「出世フリークの兄と酒浸りの弟と旅するなんて真っ平」と叫んでいましたが、かつては仕事中毒で休みなく働き、思想的には左派、今は無職で飲んでばかりいる私の性質を3分割したかのような3人きょうだいです。
印象的だったシーン。
グループの一人、若いエルザが化粧品をどっさり持ってきたのですが重さに耐えきれず、草陰に捨てます。
後から来たピエールがエルザが捨てたものを見て、自分もたくさんのものを捨てます。歩き続けるうちに俗世のプレッシャーを手放していくことを示唆しているのでしょう。
夫と子供の生活を支えなくてはならないため、すっかり性格がきつくなっていたクララも徐々に柔和になり、最後にはあっと驚く決断をします。
最も変わらないのがクロード。なにしろ巡礼宿ではワインが飲み放題ですし、いたるところに酒場があります。
あんなに飲んでいたら、長距離を歩けないだろうと思うのですが、ヨーロッパの人はアルコールを分解する酵素が多いから大丈夫なんでしょう。私は一人旅だし、アルコールを控えるいい機会だと思って歩くつもりです。
映画のような劇的な変化でなくても、私の人生も少しは変わるかもしれません。
背負って歩けるだけの荷物で日々を過ごせば、生きていくために必要なものはそう多くないと実感できるでしょう。そして、歩くことが習慣になれば健康寿命が延びるはすです。「もう歩くのはこりごり」とならなければいいのですが。
昨年の夏に歩いた穂高養生園への道。スペインまで行かなくても、日本にも歩きたい道がたくさんあります。