2020年、別府のビジネスホテルで高齢女性が亡くなり、身元不明だったためニュースになりました。
部屋のトイレで倒れ、病院に搬送され死亡が確認。事件性はないのですが、5年4か月の滞在で宿泊料はきちんと支払われ部屋から現金750万円が見つかりました。役所には手間をかけたけれど、おひとり様の最期としては悪くないのではないかと感じた人も多く、私もその一人。ビジネスホテルとはいえ別府ですから、温泉の大浴場があるでしょう。近くの公共温泉もたくさんあります。頭と足腰がしっかりしていれば、高齢者施設ではなく、別府のビジネスホテルを終の棲家にするほうが楽しそう。
お金を巡る小説の名手、原田ひ香の『老人ホテル』では場末のホテルに住む訳あり高齢者を描いています。
そのホテルで働いているのが、7人きょうだいの末っ子で親にろくにケアされず、高校も中退して社会に出た女の子。長女が大天使(みかえる)、長男が堕天使(るしふぁ)、次男が羅天使(らふぁえる)、次女が我天使(がぶりえる)、三男が亜太夢(あだむ)、三女が衣歩(いぶ)と名付けたところで、末っ子でネタが尽きたのか、天使(えんじぇる)と名付けられました。次々と子供を作ったのは生活保護の受給額を上げるため。親に習い、若くして結婚し子供を作って生活保護という生き方を選ぶ姉もいますが、末っ子の天使(えんじぇる)はそうしたループを断ち切ろうとします。
ホテルで暮らす高齢者の一人が、不動産業で財を成したけれど、子どもに裏切られた光子ばあさん。天使(えんじぇる)は、親から教えてもらえなかった基本的な生活の方法から蓄財まで指導してもらうことになります。
光子ばあさんがまず教えるのはインスタントラーメンともやし、片栗粉、胡椒でつくるあんかけそば。一食60円でおなかも膨れるし栄養もとれて、500円のコンビニ弁当よりずっといい。朝は菓子パンや調理パンではなく、食パンと卵を買ってトーストと目玉焼き。最近のインフレで食品はずいぶん値上がりしていますが、計画的な自炊が安くつくということです。
それまで天使(えんじぇる)は、自分の無知を笑われることが苦手だったのに、不思議と光子ばあさんの教えは素直に受け入れます。光子ばあさんは料理を教えながらとても楽しそうだからです。
基本的な生活ノウハウを見に付けたら、次はお金の増やし方。
光子ばあさんの不動産投資は、結婚してたまたま借りていた家が大きかったので、二階を賄い付き下宿として人に貸したのが始まり。家事に子供の世話、下宿人の食事と朝から晩まで働いて貯金をして、さらに大きな家に引っ越し、下宿人を増やし、まとまったお金ができたらアパートを買って本格的に貸家業に進出。生活はぎりぎりまで切り詰め、部屋の掃除や修繕も家族で行いました。
光子ばあさんの失敗は、家族で過ごす時間を楽しまずお金ばかり稼いでいたこと。
4人子供がいたけれど、弁護士と結託してすべて子供たちの名義に書き換えられ、気が付いたら狭いアパートの一室に押し込められていました。家にはお金があるのに貧乏させられて、家業を手伝わされて大学にも行かせてもらえなかったと、子どもは親を恨んでいたのです。
不動産は儲かるというけれど、手間はかかります。
まず税金。不動産は売っても買っても税金がかかるし、家賃をもらっても税金がかかる。不動産屋、司法書士に払う手数料。建物のメンテナンス。
そして店子は気まぐれに出ていきます。敷金礼金の範囲で原状回復できないことも多いし、中には家賃を滞納する店子もいるが、簡単に追い出せないし、いきなり夜逃げされるリスクもあります。
このくだりを読んだだけで、私にはとても無理だと改めて実感。昔、谷地温泉で不動産投資について教えてくれたご婦人も同じようなことを言っていました。
人間相手にこまめに動くのが苦手で、ネット上で数字を動かせる株のほうが向いているというものの、トランプ関税騒動で先が読めなくなりました。『老人ホテル』に登場する株式投資の達人の言葉を噛みしめています。乱高下する市場でこれぞと思う銘柄を持ち続けるための呪文です。
金はあるけれど、全部種銭で、株で稼ぐための金、ある意味道具みたいなものだから、自由に使える金じゃないんだよ。ネット上の数字でしかない。だから、ないのも同じだよ。
天使(えんじぇる)は私とは逆で「聞けば聞くほど、株というのは自分には無理だろうな」とあきらめます。投資には向き不向きがあるので、自分に合ったものを選ぶのが大前提です。

頭と体がしっかりしていれば、スペインのホテルに長期滞在もできるかも。ネット証券に入れているお金は数字に過ぎないと自分に言い聞かせつつも、夢は広がります。