翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)、ビジネス記事翻訳。副業で外国人に日本語を教えていましたが、2019年3月で卒業。フィンランドが大好き。ウラナイ8所属。

異なる境遇への想像力『メイドの手帖』

年末の大掃除のモチベーションアップに読み始めた本。

 

 

深刻な内容に打ちのめされながら読みふけり、掃除どころではありませんでした。

日本では清掃業者に頼むと、そこそこのお値段でプロの仕事という感じですが、アメリカでは定期的に依頼して、主婦はあまり掃除しないという家も多いようです。

この本を日本に紹介した渡辺由佳里さんによると、アメリカの自宅のトイレ掃除をしていたら娘さんの友達がやってきて「あなたの家、貧乏なの?」と聞いたそうです。ある程度の収入があれば、掃除を外注するのは当たり前で、自宅のトイレを人に掃除させることに罪悪感もありません。メイドは有色人種や移民の女性が多く、最低賃金で働いています。

 

この本の著者のステファニーは白人女性ですが、28歳でシングルマザーとなり、両親は離婚しそれぞれ再婚していたために頼ることができず、一時はホームレスシェルターに身を寄せるほどの窮状に。生活費を得るために選んだのがメイドの仕事です。

生活はぎりぎりで、幼い娘に少しでも栄養のある食事をさせようとスーパーに行っても、フードスタンプで買い物をするのでレジ係や前後の客の視線が気になります。日本の生活保護バッシングと同じく、低所得者向けに政府が支給するフードスタンプを使うと、嗜好品を選んでいないか監視されているように感じるのでしょう。

 

ステファニーが掃除をする家は2タイプに分けられます。

メイドは透明人間のようなもので、そこにいない存在とする家。そこでは、ステファニーが働く日のカレンダーに「清掃サービス」「メイド」と書かれています。

もう一方がカレンダーに「ステファニー」と名前を書き込む家。

 

がんを患い、掃除と子どもや甥姪に遺す荷物の山の仕分けのためにステファニーを雇ったウェンディーという高齢の女性は後者のタイプでした。 

 私がキッチンを清掃し終わると、彼女は私にランチを作ってくれ、どうしても一緒にダイニングルームのテーブルに座るようにと言って譲らないときもあった。レースの白いテーブルクロスを見ながら、私たちは互いの子どもたちの話をし、人参スティックを添えた、四分の一の三角形に切りそろえた白いパンのツナサンドイッチを食べた。彼女は砂糖とクリームのパックと、銀のスプーンが添えられたティーカップにインスタントコーヒーを入れてくれ、私たちはそれをくいっと飲んだ。まるで私が子どものころに祖母と真似をしたティーパーティーのようで、彼女にもそう伝えた。ウェンディーは微笑むと、手を振って謙遜した。「きれいなティーカップは使えるときに使っておけって言うものよ」。

 彼女の手はピンクのお花の模様に縁どられたソーサーの上でカップがカタカタと鳴るほど震えていた。 

 

余命を悟ったウェンディーは、病身を奮い立たせてサンドイッチを作り、白いテーブルクロスを敷き、客用のティーカップでもてなしたのでしょう。その心遣いが、日々のやりくりに疲れ果てているステファニーをどれほど慰めたことでしょう。しかも、震える手で小切手を書き「あなたの時間は貴重なんだから」とランチの時間まで同じレートを支払うと言ってくれたのです。「ウェンディーとの思い出は、私の時間に価値があることだけではなく、私自身にも価値があったことを思い出させてくれた」とステファニーは書いています。

 私は彼女の庭の雑草を抜き、荷物の山を仕分けし、家の大掃除をして彼女の家族がすべてやらなくてもいいようにした。ウェンディーは、このような仕事を私に頼むことについて、実にこともなげだった。私は彼女を敬愛していた。奇妙に聞こえるかもしれないけれど、私は自分の人生の終わりも、彼女と同じぐらい平和でありたいと願った。

すばらしい終活。私もそうありたい。

そして、生活苦にあえぎながらきつい仕事に従事せざるを得ない人々への接し方も見習いたい。

 

私はたまたま、時代の波に乗って、きつい労働をする必要はありませんでした。クリスマス前の今の時期も、ぬくぬくとした部屋でパソコンに向かっているだけでお金が入ってきます。そんな状況に慣れきって、恵まれない境遇で疲れ果てている人への想像力が欠如していました。寒風が吹き抜ける屋外で働く人や、混雑している店のレジ係、ちょっとたどたどしい日本語の外国人労働者。少しぐらい余計な時間がかかったとしても、いらいらをぶつけずに、ねぎらいの気持ちで接したいものです。

 

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フィンランドの伝統的な農家の室内。こうした状態を保つためにはかなりの労働が必要でしょう。