翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)、ビジネス記事翻訳。副業で外国人に日本語を教えていましたが、2019年3月で卒業。フィンランドが大好き。ウラナイ8所属。

『女帝 小池百合子』の胆力

あまりのおもしろさに一気に読了。

これがフィクションだったら、現代版『砂の器』、あるいは痛快ピカレスク小説で済みますが、知事選を来月に控えた東京都民としてはなんとも複雑な気持ちになりました。

 

本棚にあると禍々しいのでkindleにしました。 

 

小池百合子は雑誌の取材などで「私が芦屋令嬢だった頃」と何度も口にしているそうですが、本物は自分のことを令嬢と呼んだりしません。

著書が小池百合子の実家があった線路わきの跡地に立った時、「芦屋令嬢という言葉が、胸に切なく迫った」そうです。小池百合子の物語は「芦屋に生まれ何不自由なく育った私」から始まりますが、丹念な取材で小池家の実態が明らかにされていきます。

 

私は芦屋の隣、西宮の関西学院大学小池百合子は3カ月で中退)出身です。こうした描写を読んでいると、学生時代がよみがえってきます。

富めるものは富み、貧しいものは貧しい。階層の格差が、私のような外から来た者にもあまりにもあからさまに伝わってくる。山側には大きな屋敷が多い。山からの急な斜面が終わり海へと至るが小池家は地理的にも、その中間あたりの平地に位置していた。

 自分の家が貧しくても、周囲も同じように貧しければ「こんなもんだろう」とつらさを感じないのが人間の常。坂道のどこに位置するかで階級がわかってしまう芦屋のような街に暮らすのは大変です。一億総中流社会は過去のものとなり、コロナ禍により格差が可視化された今、日本全体が芦屋化しているのかもしれません。 

上を見れば、そこには煌くような世界が広がっている。たくさんの使用人にかしずかれて暮らす同級生がいる。下を見ればまた、そこには最低限の暮らしを強いられ、陋屋(ろうおく)に暮らす人々の世界がある。小池家の暮らし向きはその中間にあった。

 

小池百合子の父親は貿易商だったと知られていますが、この本を読むと実態はかなり悲惨です。

経歴詐称は父から娘に遺伝したのか「元海軍中尉」「特攻隊の生き残り」「満鉄にいた」と語り、戦後の混乱期には闇屋商売でかなり儲かっていました。しかし、見栄のための出費も多く、小池家の家計はけっこう大変だったのでは。

小池百合子は公立小学校を経て甲南女子中学に進学。遠縁の男性は「甲南みたいなお嬢さん学校に行って、苦労したと思う。あまりにも環境が違う」と言ってますが、これは私にも容易に想像できます。今は違うのかもしれませんが、私が関西にいた頃は、甲南女子と言えば、経済力のある父親の元で育ち、そのまま夫の庇護の下に入る女の子が行くような学校でした。経済格差に加え、野心の塊のような小池百合子はさぞ居心地が悪かったでしょう。そして、高校時代に父親が参議院選挙に出て落選、自宅には借金取りが押し寄せてくるようになったのです。

 

小池家のお金の使い方は非常にアンバランスです。

見栄を張って外車を買ったり、娘が修学旅行に行くとなればクラス全員にポケットコートを差し入れる。その一方で高校2年の冬休みはスキー場に住み込みでアルバイトをしなければ学費が払えないほど家計は逼迫していました。

 

小池百合子がカイロにいた頃、父親がやってくると宿はいつもナイル・ヒルトン。そんな高級な宿に泊まっているのに娘に仕送りはしない。そのくせエジプトの要人に不正入学を頼む。そして、小池百合子は父親に会いに行くたびに白いテーブルクロスを巾着袋替わりにしてコーヒーカップや皿、ナイフ、フォーク、シュガーポットを持ち帰ってきたそうです。

 

取りざたされている学歴詐称問題。

政治家に学歴は不要だし、エジプトではコネがあれば大抵のことがまかり通るらしいので、卒業証書を買ったのなら、それはそれでいいのかもしれません。しかし、この本で「息を吐くようについた嘘」の羅列を読んでいくと、こういう人が知事なのかと東京都民としては暗澹とした気持ちになります。

私が日本語教師養成講座で教えてもらったのは、お茶の水大学の大学院で外国語教育を専攻した学究肌の先生でした。ある時、小池百合子の話題になり、先生はこう言い切りました。

「たまたたま竹村健一の番組にアラブ諸国の人が出演しているのを見たけれど、小池百合子アラビア語を話さなかった。カイロ大学首席卒業なんてありえない」

小池百合子が本当に留学したかったのは欧米。さまざまな事情でカイロに行くしかなかったけれど、アラブ社会に対する尊敬も愛着もない。だからアラブ最高峰の大学を首席で卒業したなんてほらを吹けた。

日本で暮らすエジプト人女性が語った言葉。

「たどたどしい日本語で『私、東大出たよ、一番だったよ』と言われたら、日本人のあなたは、どう思いますか。東大、バカにするのかって思うでしょ。コンビニで働いている外国人の方だって日本語を話すでしょ。結局、アラビアを、エジプトを低く見ている。バカにしているから、首席で出たなんて言えるんでしょう。日本人のことも、これぐらい言っても、どうせバレやしないとバカにしてるんでしょうけれど」

ネイティブが聞けばすぐにばれてしまう語学力で、アラブ最高峰の大学を首席で卒業したと嘘をつける胆力に驚愕。そして、その嘘がそのまま通用する日本という国に絶望します。 

 

そして、読み進めているうちに小池百合子のあまりの冷酷さに背筋が寒くなってきます。人は殺していないものの、自分にとって用済みになった人間をばっさりと切り捨てていくというサイコパスぶりを発揮していきます。

 

小池百合子にとって都知事の座は、彼女の物語を構成するための一要素にしかすぎません。希望の党が勝てそうだったら、さっさと都知事の座を捨てて国政に返り咲いていたはずです。「排除します」発言で形勢が不利になり、都知事にとどまるしかありませんでした。

東京都民としては、知事なんて誰がなっても人々の暮らしはそう変わらない平穏な日々の到来を願っています。

 

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 西新宿の高層ビル街にある東京都庁。テレビドラマ『勇者ヨシヒコ』では魔王が住むとされていました。伏魔殿の頂点に立つのは、ふつうの人間ではとても無理なんでしょう。