翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

熊野古道の使い猫

熊野古道から帰ってきて一週間。

コロナによる3年間の封印が解けたような旅でした。忘れられないのは、初日に出会った猫、みゃあちゃん。

 

滝尻は熊野古道の中辺路のスタート地点。

紀伊田辺の駅周辺にはビジネスホテルもあるのですが、それだとバスで滝尻に出るまで40分ほどかかります。慣れない古道歩き、できるだけ早く出発したいので滝尻に泊まることにしました。4室しかない「民宿・古道の杜あんちゃん」を予約できたのは本当にラッキー。もともとは渓流の釣り人用の宿だったのが、熊野古道の人気とともに外国人がよく泊まるようになりました。滝尻から近露まで10時間一緒に歩いたジェシーとケイトも同じ日にこの宿に泊まっていたのです。

 

この宿の名物女将、みゃあちゃん。

岩合光昭氏が「これまで撮影した猫のうち、五本の指に入る」と絶賛し、和歌山篇のトップページに登場。みゃあちゃんに会うためだけにこの宿に泊まる人もいるそうです。

 

そのみゃあちゃんが、私の部屋にいらっしゃいました。ふすまを自分で開けて自由に部屋を行き来しているのです。

 

「いいクッションを見つけた」とばかりに私の膝の上によじ登ってきます。

 

そして丸くなりました。身動きができない! 今日会ったばかりなのに、安心しきってすやすやと眠るみゃあちゃん。野良猫だったからはっきりした年齢はわからないけれど、15歳は超えているというのでかなりのお年です。

 

さすがに足が痛くなって、何度か下りてもらったのですが、しばらくするとまた乗ってきます。

宿のご主人によると、みゃあちゃんは宿泊客の中で最も自分を必要とする人のところで一緒に寝るそうです。

あるとき、「熊野古道を歩くのを楽しみにしていたのに、足が痛くて歩けそうにない」というブラジル人旅行者にみゃあちゃんは寄り添って寝て、翌朝、足がすっかり治っていたとか。みゃあちゃんはぐったりと消耗していたそうです。なんというヒーリングパワー。

そろそろ寝ようと布団を敷いて横になると、みゃあちゃんは当然のように私の横で寝ます。こんなに寄り添ってくれるということは、もしかして私、病魔にむしばまれている? ジェシーもケイトも猫好きなのに、なぜ私のところだけに? 

 

朝になると、みゃあちゃんはどこかに去っていきました。

ジェシーとケイトは自然を楽しみながらゆっくり歩くというので、私はお先に出発。自分のペースで歩くつもりでした。お彼岸だし、亡くなった両親を偲びながら。

 

滝尻王子に手を合わせて歩き始めると、最初の難関、500メートル昇り。胎内くぐりの大岩までたどりつきました。岩をくぐることもできるけれど、服が泥だらけになるのでやめたほうがいいと宿のご主人が言っていました。ここを過ぎて不寝王子に行くはずが、岩の周りを何度もぐるぐる回って道がわからなくなりました。こんなスタート地点から迷うとは!

結局、ジェシーとケイトに追いつかれ、「私は方向音痴だから一緒に歩かせて」と頼む羽目になったのです。結果的に最高の一日になったのですが、迷うはずのない場所で迷ったのは、みゃあちゃんの魔力のような気がしてなりません。今はおばあちゃん猫になって室内にいることが多いけれど、若い頃のみゃあちゃんは熊野古道が遊び場だったのです。

人と交流しようとせず、自分の殻に閉じこもるのはよくないと、みゃあちゃんが教えてくれようとしていたのかも。「熊野古道の成り行きがスペイン巡礼を占う」と緊張しまくっていた状態をほぐしてくれました。

 

前日の紀伊田辺から滝尻へのバス、ジェシーと一緒でした。私たち以外はにぎやかな外国人のグループやカップルで、一人客はジェシーと私だけ。よっぽど話しかけようかと思ったけど、コロナの3年間で、見知らぬ人に話しかけるハードルがとても高くなってしまいました。滝尻で同宿だとわかって、やっと話すようになったのです。旅はやっぱり道連れ。一人旅同士、旅先の時間を共有できたら本当に楽しい。スペインの巡礼も肩の力を抜いて歩けばいいのでしょう。