翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

自分の力だけでは成功できない マルコム・グラッドウェル『天才!成功する人々の法則』

 マルコム・グラッドウェルに夢中です。こんなにおもしろい本の書き手はめったにありません。

 

bob0524.hatenablog.com

 

2冊目に読んだのが『天才!成功する人々の法則』。

  

天才というと"genius" という英単語を思い浮かべますが、現代は"outliers"。ラインを越えた人、統計学で言う「はずれ値」のこと。そしてこの本は、天才はどんな境遇に生まれようと自らの才能と努力によって成功するという神話を打ち砕きます。

 

カナダの国民的スポーツはアイスホッケー。メジャージュニアリーグの決勝戦は大きな注目の的です。

チームに選ばれた選手には1月、2月、3月生まれが多い。西洋占星術なら山羊座水瓶座魚座、東洋占術なら丑月、寅月、卯月生まれがアイスホッケーの才能に恵まれているということになります。私は東洋占術が専門なので、氷の上で激しく動くのは、陰陽五行の水(氷)の上で機敏に動くには、春の芽生えを象徴する木がふさわしいとかもっともらしい説を書くこともできます。

 

真相は占いとはまったく関係ありません。

カナダでは年齢を区切るのが1月1日。代表チームに選ばれるメンバーは9歳か10歳で選ばれるので、体が大きく少年を才能があるとみなされがちです。この年齢で12カ月の差は大きく、1月から3月生まれが有利になります。そして、選抜メンバーに選ばれるとスケート場での練習の機会が与えられ、天才に到達するための1万時間の壁をやすやすとこえます。どこでも練習できるバスケットボールやサッカーと違い、アイスホッケー選手の生まれ月の偏りは顕著です。

 

スポーツ分野だけではありません。

ビル・ゲイツスティーブ・ジョブズのような起業家がどうして日本に出現しないのか」。それは彼らが絶妙のタイミングで生まれたからです。

ゲイツジョブズはともに1955年生まれ。そしてサン・マイクロシステムズビル・ジョイは1954年に生まれています。これより前に生まれていると、10代でコンピューターに触る機会などなく、これより後だとすでにコンピュータービジネスが確立していて新規参入には手遅れです。

そして、歴史に名を遺すような大富豪は1831年から1840年に生まれたロックフェラーやカーネギーなどのアメリカ人に集中しています。これはアメリカが工業生産が本格的に始まり古い経済が崩壊する転換期に才覚を発揮できる年代だったかです。

 

新卒一括採用の日本ではビジネス界全体にこのロジックはあてはまります。どんなに優秀でも生まれた年が悪ければ正社員になれず、そのマイナス面を一生背負わなくてはいけない世代が生まれてしまったのです。

そして、私自身、経済的に自立できたのは1980年後半の東京でフリーランスのライターとして働き始めたからだと思い至ります。それより前だとあまり景気がよくなくて、広告や出版業界の規模はそう大きくありませんでした。1980年代後半なら、実績がない若いライターにも原稿依頼が舞い込んできたのです。ネットがなかったので、東京にいて声がかかったらすぐに編集部に顔を出せることが条件でした。今の若者はどんなに文章力があってもライターだけで食べて行くのはかなりむずかしいでしょう。

 

エピローグはマルコム・グラッドウェルの家系の物語です。

母のジョイスは1931年、ジャマイカ生まれ。双子の姉妹、フェイスがいます。11歳で奨学金を得てイギリス系の寄宿学校に入学します。

当時のジャマイカはイギリスの植民地。支配国であるイギリスに対する不満が爆発し、ストライキが頻発していました。英国政府はジャマイカ国民の不満を解消するために、成績の優秀な生徒が進学するための奨学金制度を設けたため、ジョイスとフェイスは高等教育を受けられたのです。二人が数年でも早く生まれていたら、進学できませんでした。

寄宿学校を卒業後、二人はロンドンのユニヴァーシティ・カレッジに合格します。姉妹のフェイスはジャマイカ奴隷制度が廃止された100周年を記念する特別奨学金も勝ち取ります。島全体で受け取れるのは一人だけで、男子と女子が交互に対象になります。たまたまその年は女子の番だったのでフェイスに決まったのです。

フェイスはロンドンの大学に行けるけれど、双子の姉妹のジョイスは? 学費だけでなく渡航費、部屋代、食費、生活費がかかります。母は島の小売業を牛耳っていた中国人からお金を借りて、ジョイスもイギリスに送り出しました。

 

ジョイスはロンドンで若き数学者グレアムと恋に落ち、結婚。カナダへ移住し、グレアムは数学教授に、ジョイスは作家、セラピストとして成功します。3人の息子が生まれ、そのうちの一人がこの本の著者であるマルコム・グラッドウェルです。

 

天才はどんな逆境にあろうとも、自分一人で努力し成功するいうのはフィクションです。純粋に自分の力だけで成功する人はいません。そして、うまくいかなかった人も、すべてその人のせいではないでしょう。自己責任とか自助という言葉で失敗した人を切り捨てるのは危険です。

 

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晴れの国、岡山駅前は青空が広がっていました。

昔話はシンプルですが、桃太郎の成功にもたくさんの要因があったはずです。