『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ(見知らぬ人に話しかける)』というタイトルに惹かれてこの本を読んでみました。コロナでむずかしくなりましたが、旅先で見知らぬ人とちょっとした会話をするのがとても好きなので。
私が想像していた内容とはかなり違っていました。
「見ず知らずの相手に対して、人は大きな勘違いをする」というテーマ。そして「話せばわかる」のではなく、話せば話すほど間違えるのです。
著者のマルコム・グラッドウェルは1963年イギリス生まれで、母はジャマイカ人の心理療法士、父は数学者。カナダで育ちジャーナリストに。5作すべてがミリオンセラーとなり「出版界のロックスター」の異名を持ちます。
ノンフィクションでありながらミステリー小説のような展開。ページをめくるのももどかしく、一気に読了しました。
エピソードのすべてが刺激的です。
イギリス首相のチェンバレンはヒトラーに何度も会いながらも、本質を見抜けませんでした。アメリカの国防情報局に潜入したキューバの二重スパイは優秀な局員として高く評価されていました。
人はデフォルトで相手を信用するように初期設定されているそうです。その能力があるからこそ、他人との協力でき文明が発展。たまにだまされることがあっても、そのデメリットを補ってあまりあるメリットがあるのです。
特におもしろかったのは、バーナード・メイドフの出資金詐欺。
詐欺をあばいたハリー・マルコポロスはギリシャ系アメリカ人の二世。家業はペンシルバニア州のフィッシュアンドチップスの店で子供時代からありとあらゆる不正を目にしました。ナイフやフォークを持ち帰る客、エビや鶏肉を盗む従業員。苦学してビジネススクールを卒業し証券会社に就職したマルコポロスはメイドフが莫大な利益を得ている戦略が理解できず徹底的に検証します。
裕福な家庭に生まれ、名門ビジネススクールを卒業し、ノーベル経済学賞を受賞するほどの金融界のエグゼクティブ達はメイドフの詐欺を見抜けませんでした。「きっと誰かが目を光らせている」と思い込んでいたからです。
マルコポロスは「王様は裸だ」と叫んだ少年です。
その洞察力に感銘を受けましたが、マルコポロスの人生はあまり幸福でなさそうです。常に命を狙われていると感じ、拳銃を携帯し自宅の警報システムをアップグレードし、異なるルートで出勤するという日々はストレスが大きいでしょう。
そして、二重スパイを徹底的に排除する情報機関は職員の疑心暗鬼を生み、士気が低下します。
見知らぬ人を理解するのは無理。そう割り切ったほうが人生は楽になります。
占い鑑定には、さまざまな人が訪れます。中には虚言症で大風呂敷を広げる人もいるでしょう。ロジックを駆使して虚偽を暴くより、客の話に乗るほうがいい。鑑定料金を払うのはいい気分になりたいからです。わざわざお客様を嫌な気分にさせるより、虚構を信じるふりをして開運のヒントをちらりと語るのがお互いのためです。
セビリアのバール、エル・リンコンシロ。見知らぬ人とたくさん話して、魔法のようなひと時が過ごせました。あまりにも名残惜しかったので、翌朝の開店前に店の外観を撮影。