『女帝 小池百合子』が興味深くて、ウラナイ8のメンバーと読み会を開いたりしました。
小津映画を一通り観ているので、『原節子の真実』もおもしろく読めました。
石井妙子の他の著書も読んでみたいと手に取ったのが『おそめー伝説の銀座マダム』。
川端康成、白洲次郎、小津安二郎など昭和の文化人を魅了した女性。『女帝 小池百合子』『原節子の真実』とは異なり、本人とその家族に接して書かれたノンフィクションです。
「おそめ」こと上羽秀(うえば・ひで)は生粋の京都人。新橋で芸者修業し、京都の芸妓となり、京都と銀座にバーを開店。生まれながらの美貌と天性の人あしらいで東西の水商売の世界を制しました。
本人に野心があったわけでなく、常連の文化人が応援する形で京都から東京に進出。お金への執着はまったくなく、ただ酒場で人と接するのが大好き。そういう天真爛漫さが客の男性には最大の魅力と映りましたが、同業の女性からは激しく嫉妬されたようです。
酒場では男性にお酌するより自分が飲むという私は、水商売の客あしらいというのがいまひとつ理解できないのですが、まだ新幹線もなかった昭和30年代に京都と東京の二拠点生活を実現させたのにびっくりしました。
土曜日に京都に帰り、火曜日に東京へ。特急「つばめ」で片道7時間20分。そのうち飛行機を利用するようになり「空飛ぶマダム」として一躍有名になりました。毎週2回搭乗すれば、一気にマイレージクラブの上級会員になりどれだけマイルが貯まるんだろうと下世話な想像をしてしまいます。
絶対にかなわないのが「お金の流れを止めない」という姿勢。
お金を稼いで社会に還流したいと私も思っていますが、不相応な贅沢はしません。グリーン車やビジネスクラスに乗るより、その分を次の旅に回します。GO TO トラベルで高級宿が人気だそうですが、私はあいかわらずドーミーインに泊まっています。
それに比べて、おそめさんのお金の回しっぷりのなんとすばらしいこと。
気前よくチップを配り、傷痍軍人がいると、必ずお金を与える。家族から注意されると「そんな、お金みたいなもの、お金みたいなもの、どうにでもなるっ」と子どものように膨れて言い返したそうです。
秀には、金に関するひとつの信条があった。「お金、いうのは流れているもんや。流れを止めたらあかんのや。特に水商売のものは」。世間に流れる金の量は決まっている。だから誰かが、それを堰き止めてしまったら、必ず誰かが金を手にできずに苦しむことになる。「だから手元に置いといたらあかんのや。お金いうもんは。すぐに流してやらんと。流してあげたら、また流れてくるのやから」。どこで、誰に聞かされたのか、それが秀の口癖であり、哲学だった。
ここまでの潔さがあるから、水商売の世界にいて無垢の天使のような輝きを保ち、多くの男性を魅了したのでしょう。
残念ながら銀座と京都のお店は時代の流れとともに姿を消し、京都に建てた豪邸も維持費が捻出できず人手に渡りました。それもまた、おそめさんらしく、お金を流し切った見事な一生です。
羽田へと向かうエコノミー席から見た東京の風景。