翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

確証バイアスと地面師たち

Netflixの「地面師たち」、評判通りのおもしろさでした。

 

実際に起きた積水ハウス地面師事件のドラマ化。あんな大企業が巨額の土地取引でだまされるなんてあるわけないと思うのですが、事実は小説より奇なり。実際には、ドラマよりずさんなチェック体制でまんまと引っかかってしまったそうです。

 

ジュリアス・シーザーは「人は見たいものしか見ない」と言いました。「そうであってほしい」という願いに沿った情報ばかり集めて、それ以外の情報は「そんなわけないだろう」と否定して捨ててしまう「確証バイアス」です。

「地面師たち」では、企業側は社運をかけた巨大プロジェクトの予定地が取得できず、どうしても代わりの土地が欲しいという事情がありました。社内の派閥争いもからみ、プロジェクトが頓挫すれば出世の道が閉ざされるという状況。「あの土地はあやしいんじゃないか」「地主は偽物かも」といった声が出ても、すべて怪情報として無視されたのです。地面師がターゲットにするのは街の不動産屋で、大企業を相手に詐欺をしかけてくるわけがないという思い込みもあったのかもしれません。

 

個人がひっかかるような詐欺も、傷を深くするのはこうした思い込み。途中であやしいと感じても、引き返せなくなるのです。

bob0524.hatenablog.com

 

地方だと、詐欺にあったという噂はすぐに広まり、恥ずかしくて外を歩けなくなるかも。近所や親戚にも勧めていたりすれば、針のむしろ状態でしょう。

少額を失っただけなら、勉強になったと笑いとばすことができます。しかし、だまされていた場合のダメージが大きければ大きいほど「詐欺ではない、ちゃんとした投資だ」という言葉にすがり、傷をますます深くしていきます。

 

これから高齢者が狙われる詐欺はますます増え、手口も巧妙になっていきます。「自分で銘柄を選んで証券会社を通して運用しているのだから、投資詐欺なんて引っかかるわけがない」という自信がかえって仇になるかもしれません。認知機能は日々衰えていく一方なのですから。

 

スペインの巡礼では、いたるところに道標があって、黄色い矢印に従って歩けばいいのですが、ごくたまに道を誤りがちな箇所もあります。おかしいと思ったら、そこで立ち止まって後続の巡礼者が来るのを待つことにしていました。

ずんずん進んでいくうちに「こんなに歩いたのだから、引き返すのはいやだ」という「サンクコスト」が発生します。サンクコストは埋没費用とも呼ばれ、過去に支払ってしまったコストを取り返したくて途中でやめられないという流れ。「地面師たち」でも、他社との競合を匂わされ必死でプレゼン資料を作り、手付金まで払った時点で詐欺はほぼ成功したのでしょう。

 

「確証バイアス」や「サンクコスト」など消費や取引にまつわる人間心理を扱う行動経済学は、うさんくさいという批判も出ていますが、知っておいて損になりません。巧妙な詐欺師にひっかかっても、どのポイントで冷静になって引き返せるかどうかが運気の分かれ目です。