飲み会で「海外旅行するなら、どこへ行きたいか」という話題になりました。私が行きたいのはコロンビア。ガルシア・マルケス『百年の孤独』のマコンド村のモデルであるアラカタカを訪れてみたいのです。
その数日後、「あなたが話していたコロンビアの小説、本屋さんで平積みになっていたからびっくりした」と言われました。
『百年の孤独』は50年以上前に出版され、新装版や改訂版が出されましたが、なぜか文庫にはなりませんでした。そのため「文庫化されると世界が滅びる」という都市伝説が流れたほどで、今回の文庫化は大きなニュースになったはず。しかし、そんなことを知っているのはごく一部の人間で、世間の大半はラテン文学とは無縁なんでしょう。
また別の飲み会で、地面師の話題が出たときもNetflixのドラマどころか、実際に起こった事件もまったく知らず「地面師」という言葉自体を聞いたことがないという人もいました。
いずれも、世間知らずな引きこもりというわけでなく、40代と60代のバリキャリ女性です。忙しくて必要のない情報はインプットしないのかもしれません。
おそらく、私にも世間では常識とされているのに知らないことがたくさんあるはずです。これが「情報のタコつぼ化」というものでしょうか。
ネットでさまざまな情報に触れている気分でいても、パーソナル化のフィルターにより自分の興味や関心のあるジャンルだけが表示されている状態。自分と異なる視点や立場はこの世に存在しないような錯覚に陥りがちです。陰謀論にハマる人が続出するのもこのためでしょう。
タコつぼから出るためには、異なる地域や文化の人たちと交流し、自分が常識がすべてだと思い込まないようにすべきなんでしょうが、簡単なことではありません。
タコつぼから出るには旅が有効でしょうか。
スペイン巡礼で視野が広がったかというと、そうでもありません。自分と似た特性の人たちばかりと会って、タコつぼがより深くなったような気がします。
カズオ・イシグロが「地域を超える『横の旅行』ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かを知る『縦の旅行』が必要だ」と述べています。近所に住んでいてもまったく世界に住んでいる人のことを知るべきだと。
ガルシア・マルケスや地面師なんて知らないという人と話せる会は貴重な機会かもしれません。このところ食が細くなり、食事会や飲み会が苦手になりましたが、声がかかるうちは出席したほうがよさそうです。