3月のお彼岸、熊野古道への旅を思い立ちました。
羽田から南紀白浜空港に飛び、JRで紀州田辺へ。ビジネスホテルに泊まってもいいのですが、出発点の滝尻王子まではバスに乗ります。ちなみに熊野古道での王子は、参詣者の守護を祈願するための神社の名称で、やんごとなきプリンスが立ち寄った場所ではありません。
熊野本宮大社まで38キロ。途中で一泊すれば2日で歩けるだろうと踏んだのですが、平坦な道ではなくアップダウンがかなりあります。滝尻王子周辺の民宿をまず予約。次は中間点の近露(ちかつゆ)王子の宿です。目星をつけた宿は2か月前だというのに満室。次の宿は廃業。ようやく3軒目で予約できました。
外国人旅行者を受け入れているので、英語の案内もあります。筍や山芋、椎茸をふんだんに使ったベジタリアンメニューを予約すると「何かアレルギーがありますか」と連絡をいただきました。「いえいえ、とてもおいしそうだったから選んだだけです、お気遣いありがとうございます」と返信。
こういうやりとりがあると、いい宿なんだろうと期待がぐっと高まります。
2日目を歩き通すのはあきらめて、バスでショートカットすることにしました。というのも、熊野本宮大社周辺にはいい温泉があるから。お昼にはお参りを済ませて3時には宿に到着して温泉を堪能するためです。あまりの悪天候だったら、全路バスだってありです。
近露の民宿の女将さんとメールのやりとり。
「一泊二食のご予約ですが、翌日のお弁当はなくても大丈夫ですか?」
「翌日はバスに乗るので大丈夫です」
「近露では3月は17時30分ごろから暗くなります。出発点の滝尻から近露は平均的なスピードで歩くと7時間かかります。どうぞお気を付けて」
さて、山道を7時間、歩き通せるだろうか。
スペイン巡礼路のフランス人の道、出発点のサン・ジャン・ピエド・ポーからのピレネー越えに匹敵します。「ここを歩けなければ、スペイン巡礼は無理だ」と考えてしまうのが私の悪い癖。八丈島の富士登山の二の舞になってしまいます。
途中で無理だと思ったら、バス停に出てバスに乗ればいい。そういう気楽なスタンスで行くことにしました。
そして、荷作りもスペイン行きのいい練習になります。自分に必要な荷物を背負ってどこまで歩けるか、人生と同じです。スペイン巡礼では1回5ユーロほどのモチーラと呼ばれる荷物配送を利用するつもりです。熊野にも同じようなサービスがあるらしいのですが、行ってみるまでわかりません。最悪の事態も想定して、自分で背負える重量まで荷物を減らさなくては。
旅を人生にたとえれば、家に溜め込んでいるガラクタは旅路を困難なものにしているだけです。
死後の一切の後始末を託しているNPO法人に、年に一度の家庭訪問をお願いしてます。自立した暮らしができなくなれば、適切な施設への入所も手配してくれるはずです。
「自宅で暮らすがのが無理になる予兆はどんなものですか?」と質問すると、生活必需品の過剰在庫とのこと。
食品やトイレットペーパー、電池など一生かけても使い切れないほどの在庫が収納スペースをはみだして生活空間を圧迫し始めたら、施設に入居すべきだというサインだそうです。
一人暮らしの伯母が認知症となり施設に入居し、兄と二人で片付けに行ったことがあります。一日あれば済むかと思ったのですが、とても終わらず泊りがけとなり、業者にも頼むことになりました。
山のように出てきたのは賞味期限切れの醤油と砂糖、食用油。何年分ものトイレットペーパーとティッシュ。戦後の窮乏期を生き抜いた伯母は、安売りのたびに買い込んでいたのでしょう。洗面所にはペラペラのタオルがかかっていて、押入れの中にはブランドものの箱入りタオルが山積。
子どものころに読んだトルストイの『人にはどれほどの土地がいるか』。何十年たっても、読み返しています。
夏の帯広、2泊3日の荷物。
短い旅行なら、ちょっとしたお出かけ程度の荷物にできるようになりました。未開の地に行くのでもない限り、たいていのものは旅先で手に入ります。
ただし、バッグ好きはあいかわらず。もう十分な量のバッグがあるのに、レスポートサックとJALのコラボのシンプルな紺が気にって羽田のJALショップで買ってしまいました。
トルストイの『人にはどれほどの土地がいるか』シリーズ。