翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

ラテンで行こう

スペイン巡礼に行くか行かないか、さんざん迷いましたが、この秋に決行することにしました。不安は尽きないけれど、老いは確実に忍び寄っています。先延ばししていたら、行かないうちに一生が終わってしまうのは避けたいから。

 

あまり気負うことなく、とにかく出発すればいいと背中を押してくれたのが、小野美由紀『人生に疲れたらスペイン巡礼』。

 

サンティアゴ・デ・コンポステーラへの道は世界各国から巡礼者が集まりますが、やはり地元のヨーロッパ勢が多いようです。

興味深かったのは、ヨーロッパでもゲルマン系(北)とラテン系(南)では歩き方に大きな差があること。

イギリス人やドイツ人は、朝も早くから出発して黙々と歩き、まさに修行。

それに対して、スペイン人やイタリア人はいたってのんびり景色を見ながら歩きます。お昼はおいしいランチとおしゃべり。そしてシェスタ。夜はワイン。楽しい日常をそのまま巡礼に持ってきたみたいです。

 

日本人はゲルマン系タイプが多いと思います。巡礼体験のブログを読むと、きつめのスケジュールで休みなく歩いている人が大半です。30日前後で歩き切る健脚自慢の人もいます。

 

著者の小野美由紀さんもそんなスタイルで歩いていたら、ある日、女性の巡礼者から「急ぎすぎ!」と声をかけられたとあります。

何をそんなに焦っているの? 巡礼宿のベッドを独り占めしたいってわけ? あんなたいしたことないベッドを? もし宿が満員なら、床に寝ればいいし、野宿したっていい。この道に危険なことなんて何もないでしょう?

あなたはまだ、他人の時間に引きずられているのよ。都会の、慌ただしくて、人に左右される時間のまんま。

都会で生活しているとね、自分のリズムに従うのって、とっても難しくなる。みんなが言うもの。もっと速く! もっと効率を上げて!って。でもね。この道は違う。どうせ急いだって、ゆっくり行ったって、たどり着くのは同じ場所なのよ。急いでも何も見つからない。それどころか大事なものを見落としてしまう可能性がある。

 

死者の供養の意味もあるので、49日間(7週間)の日程です。ヨーロッパの往復で行きと帰りに2日は必要なので実質は45日間。

一気にサンティアゴ・デ・コンポステーラまで歩かないかもしれません。途中で足が痛くなってリタイアする可能性は十分あります。四国のお遍路さんの「区切り打ち」と同じく、何回かに分割して巡礼する人もいるらしいし、続きを歩きたくなったらまた行けばいいのです。

 

このところ毎日、易経の原稿ばかり書いているのですが、六十四卦は乾為天(けんいてん)で始まり、火水未済(かすいびせい)で終わります。

火水未済の一つ前が水火既済(すいかきせい)。「既に済む」だし六爻すべての引用がふさわしい場所にある望ましい卦ですから、こちらのほうが最後にふさわしいのに、易経の作者はわざわざ火水未済のほうを後に持ってきています。

 

人生では、すぱっと終わることのほうが少なくて、片付いていないことがあれこれあって、らせん状に進んでいくものです。巡礼を一回で終わらせず、帰国後も「巡礼の途中」状態で暮らすのも悪くありません。むしろ楽しいかも。

急いで行っても、ゆっくり行っても、途中でリタイアしても、最終的にたどり着くのは同じ場所でしょうし。

 

こういう店でゆっくりカフェ・コン・レチェ(カフェオレ)を飲んで、ちょろっと歩くだけの旅になるかも。