翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

ストーリーなしでは生きられない

ライターや占い師として収入を得られてきたのは、ストーリーテリングの才能が多少はあったからです。

雑誌の記事としておもしろく読んでもらえるためには、事実の羅列だけでなく、物語化が必要です。

そして、占いでは生まれた日を元にした四柱推命の命式や出た易卦を手がかりに、占的に応じてストーリーを組み立てていきます。

 

人類は昔からストーリーを楽しんできましたが、ジョナサン・ゴットシャルの『ストーリーが世界を滅ぼす』を読んでライターや占い師は自分の力の大きさを自覚するべきだと肝に銘じました。

 

序章から刺激的。「物語の語り手を絶対に信用するな」

人間は自分にとって都合のいい物語にしがみついてしまう傾向があります。占いがカルト宗教の入口になってしまうのはこのためです。

uranai8.jp

『ストーリーが世界を滅ぼす』には、「キリスト教は自然発生的な口づてのストーリーテリングによって広まった」とあります。キリスト自身が熟練のストーリーテラーでたとえ話のような教訓を語りながら各地で布教を展開していきました。

 

私がこの秋に計画しているスペインの巡礼も、キリスト教のストーリーに乗せられたようなもの。

ヤコブが亡くなったのはエルサレムのはずなのに、なぜか遺体はスペインの地に移動。そして何百年もの後に、星に導かれた修道士が聖ヤコブの遺骨と墓をサンティアゴ・デ・コンポステーラで発見されたことになっています。

にわかには信じがたいストーリーですが、毎年30万人がこの話を信じ(たふりをして)巡礼路を歩いているのです。

 

現代の巡礼は一種のウォーキングツアーのようなもので、誰にも害はありませんが、厄介なのはストーリーを完全に信じて全財産をカルト宗教に寄付したり、敵対関係にあるとされる団体を攻撃する人です。

『ストーリーが世界を滅ぼす』で紹介されている、2018年のピッツバーグシナゴーグユダヤ教礼拝所)襲撃事件。11人が亡くなり多くの人が負傷しました。

犯人は46歳の男性で、失業していたもののかつてはパン屋で働き同僚からは好かれていたし、パーティーで子供の相手をするような好人物。トラブルを起こしたことは一度もないので、重機関銃購入に何の問題もありませんでした。そして襲撃後、警察に取り押さえられながら「自分は単なる錯乱者ではなく、ユダヤ人のアメリカ侵略を阻止するための行動だ」と釈明を続けました。

俺はバカじゃない。無防備な、ほとんどが高齢者ばかりの礼拝者たちい銃を乱射するのが良いことに見えないのはわかっている。自分が怪物に見えるだろうことはわかっている。だがよく見てくれ。俺は怪物なんかじゃない。怪物を倒すために犠牲をいとわない善人なんだ。

 

シェイクスピアの戯曲にを元にしたオラクルカードをたまに使います。

「月」のカードはマクベスをそそのかした三人の魔女。主君を暗殺するという恐ろしい反逆は魔女がマクベスに語るストーリーにより現実化されました。

 

ジョナサン・ゴットシャルは現代人がストーリーに依存しているため、足元の真実が認識できなくなって危険な状態にあると繰り返し説いていますが、だからといってストーリーのない世界は考えられません。

よくできた小説や映画に数多く触れて、へたくそな創作物のほころびを見破る選択眼を磨くこと。そして占いは人生という多面体の一部にほんの少し光を当てるものだと割り切り、すべてを丸のみしないこと。そんな対処法しか思いつきません。