二度目のヘンリク君の来日。
今回は、東京ビッグサイトで開催されたフィンランド発祥のスタートアップイベント「スラッシュ トウキョウ」のボランティアスタッフとして日本に来ました。
ヘンリク君の両親に会った時、お母さんが「スラッシュ」の話をして、ヘンリク君にぜひ関わるように勧めていました。
90年代のフィンランドは、ソ連邦の崩壊により経済的ダメージを受け、深刻な不況に陥りました。
アキ・カウリスマキが『浮き雲』で描いたのはこの時代で、同時に失業した夫婦の話です。
その後、ノキアの台頭で経済は持ち直したものの、スマートフォンの台頭を予測できずに失墜。ノキアがマイクロソフトの傘下に入った2013年9月、私はたまたまフィンランドを旅行中で、友人が勤める出版社を見学していました。
「こうなることは予測できていたけれど、まるでフィンランドが戦争に負けたような気分」という嘆きを聞きました。
ノキアの失敗の教訓から学び、フィンランドは国を挙げてベンチャー企業の育成に心血を注いでいます。
ヘンリク君のお父さんはノキア出身ですから、「経済状況がどんなに変化しても生き残るスキル」を息子に身に付けさせたいと願うのは当然でしょう。
「スラッシュ トウキョウ」にはフィンランドから多くのボランティアも参加しています。ヘンリク君はプレゼンテイターがスムーズに発表できる手助けをするスタッフです。国際的なイベントで経験を積み、人脈も広げることができたでしょう。
ヘンリク君からは前回に続き、今回もいろいろと学びました。
フィンランド国民の義務である兵役の話が印象的でした。
重たい装備を背負って二日間かけての70キロ走行は、聞いているだけではらはらしました。
男女平等の点で先進国のフィンランドですが、兵役は男子のみ。ヘンリク君のように高校を卒業してすぐに兵役を選ぶと、大学入学で男女に1年の差がつき、同級生の女子は1年下となります。
「それでも、1年遅れる価値はあった」とヘンリク君。
軍事的な訓練に加えて、戦略的な思考を徹底的に教え込まれたからだそうです。
「たとえば、電話が鳴ったとする。真っ先にすべきことはなんだと思う?」とヘンリク君。
うーん、わざわざ質問するからには、電話を取ることではなさそうです。
「スマホだったら発信者が表示されるから、この電話に出るべきかどうか考えること?」と私。
「まあ、それも近いんだけど、正解は『紙とペンを用意する』。軍隊で電話が鳴ったら、それは指令だから正確に記録することが必要。電話に出て用件を聞いてからメモするための紙とペンを探すようじゃだめだ」
なるほど。常に起こりうる事態を想定し準備すること。
行き当たりばったりであたふたしてばかりいる私には耳の痛い教訓です。
兵役で学んだことは、ビジネスでも大いに役立つことでしょう。そして、兵役の体験を共有することでフィンランド人男子には強い絆が生まれるとヘンリク君は言います。
1年間の回り道のようでいて、学ぶべきことをしっかり学んだヘンリク君。
そうした経験を活かして、これからどんな道を選ぶのでしょうか。
ヘンリク君が大学に入って実家を離れるにあたり、家族がばらばらになる前の記念に両親はカリフォルニア旅行を計画したそうです。
アメリカと日本は太平洋を挟んだ隣国。日本側からの太平洋を感じたいと、ヘンリク君は裸足になって熱海の海に入っていました。