昨年の夏、NHKが「映像の世紀」全11回を再放送。20世紀の前半は世界的な戦争が続いていたとんでもない時代でした。
1914年に第一次世界大戦が勃発し、ヨーロッパの若者たちは「クリスマスまでには帰れれる」と出征。結局、帰国できたのは4年後でした。
2020年の冬、日本でもコロナ感染が広がっていった頃「暖くなる頃までには」「夏までには」と虚しい楽観論を持ったものです。2年前に比べて緊張はゆるんでいるものの、現在のほうがたくさんの感染者が出ています。
ロシアのウクライナ侵攻も、国際政治のかけひきをしているだけと思っていました。「人は自分が見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる」という確証バイアスです。
フィンランド人と親しくなると、よくこんな質問をされました。
「日本もフィンランドも、ロシアの隣国。ロシアの脅威を感じている?」
そんなことは考えたことがなかったと正直に答えると、「のんきでいいですね」と言いたげな反応をされました。
高校生の時、我が家にホームステイしたヘンリク君は翌年大学に入学すると、時間をおかずに兵役に就き海軍に入隊しました。18歳になると半年以上の兵役の義務が課せられるのです。「フィンランドはNATOに加盟していないのから」とヘンリク君。だったらNATOに入ればいいのにと思ったのですが、ロシアを刺激してかえって危険なことになると説明されました。
私がフィンランドを好きになったのは、アキ・カウリスマキの映画がきっかけです。
映画に登場するレニングラード・カウボーイズは、当時(1989年)のソ連とアメリカが大嫌いだったカウリスマキか両国を揶揄するために作った架空のバンド。後にソ連が崩壊し、レニングラードがサンクトペテルブルクとなり、バンドは「俺たちのレニングラードを返してくれ」と歌います。
レニングラード・カウボーイズのマネージャー、ウラジミールはシベリアの片田舎では芽が出ないと、アメリカに進出します。カウリスマキ映画の看板俳優、マッティ・ペロンパーが演じるウラジミールは独裁的で、メンバーにろくに食事も与えず演奏させます。おそらく、ウラジミール・レーニンから取った名前でしょう。
今はウラジミールといえばプーチン。
そして、ウクライナのゼレンスキー大統領のファーストネームは「ウォロディミル」と表記されていますが、ロシア語読みならウラジミール。
名前にまつわる話が好きで文春新書の『人名の世界地図』を持っています。外国人の知り合いができたら、まずこの本で名前の由来を調べます。
この本によると、ウラジミールはスラブ語で「支配」「偉大なる力」。闘争心あふれる名前です。今回のウラジミール対決、平和的な落としどころがあるといいのですが。
2020年、JALのウラジオストック便が就航したので6月に行く予定でした。ロシア式のサウナ、バーニャでもフィンランドと同じく白樺の枝で体を叩いて血行を促進します。ロシアの脅威を感じつつも、ロシアと共通の文化の多いフィンランドの人々は、どんな思いで今回のウクライナ進攻を受けとめているのでしょうか。