「好き」というエネルギーは人を動かす。読後、改めてそう感じた『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』。
著者のミア・カンキマキは広告会社に勤める38歳独身のフィンランド人女性。
ヘルシンキ大学の日本文学講座で『枕草子』を読んで以来、15年間愛読し続けています。
清少納言を「セイ」と呼ぶのが斬新。「セイ、あなたと私は驚くほど似ている」「セイの有名なものづくしリストに触発され、私も書いてみた」といった具合。千年前に書かれたものなのに、驚くほど身近でまるで自分に話しかけているみたいだと感じ、好きが高じて、長期休暇を取って京都に滞在し、ロンドンの大英博物館で資料を読み込みます。
フィンランドでうらやましいのは、10年間同じ職場に勤めると、1年の有給がもらえる制度。友人のジャーナリスト、アンネも利用して来日していました。
世界的な知名度では、紫式部のほうが上。英語の文献も『源氏物語』に比べると『枕草子』はかなり少ないそうです。「清少納言の研究のために来日したなんて言ったら、日本人はどう思うだろう。カレワラ(フィンランドの古典)に夢中のおかしな日本人がいたら眉をひそめるもの」とあります。
私もフィンランドでは「どうしてこの国に?」とよく聞かれました。「アキ・カウリスマキの映画が好きで」と答えていましたが、一人のフィンランド人に「カウリスマキはとても変わっているから、あまり好きじゃないというフィンランド人もいるよ」と言われました。さらに口をすべらせて「レニングラード・カウボーイズのヨレ・マルヤランタが好きで」と告白すると、「あのおかしな恰好のバンド?」と目を白黒されたものです。
『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』が本国で出版されたのは2013年。そしてのミア・カンキマキは2010年から京都に滞在しており、東日本大震災が起こります。震災直後、日本人でさえ何が何だかわからないパニックの日々を送っていたのですから、来日中の外国人の恐怖はいかばかりだったでしょうか。
家族からは帰国を勧められましたが、ミアはとりあえずタイに避難。そして桜の季節に京都に戻り、何事もなかったかのように咲き誇る桜に「もののあはれ」を感じます。
帰国後、ミアはフィンランドで枕草子の翻訳を進めている日本文学研究家に会います。「わざわざ京都やロンドンに行かなくても、すべての資料を貸してあげることができたのに」「現代の京都には平安時代の痕跡は何も残っていない」と言われ、心の中で大きなNO!を突きつけます。用意された本をヘルシンキでただ読むだけでは何もわからないし、京都の山や川、日没の美しさ、冬の寒さと夏の暑さは平安時代と同じ。実際に体感したからこそ腑に落ちるのです。
コロナが落ち着いたら、また世界を旅したい。
日本にいながらにして世界の情報を入手できるけれど、現地に行かないとわからないこともたくさんあります。開運術をいくら学んでも、実行しないと何も変わらないのと同じです。
ヘルシンキ大聖堂。レニングラード・カウボーイズが「トータル・バラライカ・ショー」を開催したのはここなんだと、何度も訪れて目に焼き付けました。
カウチサーフィンで泊めてもらった編集者はヘルシンキ大学で日本語を学んでいたから、ミア・カンキマキの先輩にあたります。そして、我が家にホームステイしたヘンリク君は交換留学で京都工芸繊維大学で学びました。フィンランドは人口550万人のIT国家でネットワークが張り巡らされていますから、次にフィンランドを訪れて「ミア・カンキマキに会いたい」と希望すれば簡単に実現するかもしれません。