翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

レニングラード・カウボーイズから『ヘヴィ・トリップ』へ

京都工芸繊維大学に交換留学しているヘンリク君。大学の冬休みを利用して東京に遊びに来ました。

 

初めて会ったのが4年半前の夏。

我が家で初めて受け入れるホームステイということでかなり緊張していたし、ヘンリク君のほうも、一族で初めて日本語を学び日本に留学するとあって緊張していたと思います。

 

bob0524.hatenablog.com

 私がフィンランドにハマったのは、アキ・カウリスマキ映画のレニングランド・カウボーイズのせいです。ソ連アメリカも大嫌いというへそ曲がりなカウリスマキが映画のために作ったバンドですが、その後ヘルシンキ大聖堂前の大広場で大コンサート(トータル・バラライカ・ショー)を開くほどになりました。ボーカルのヨレ・マルヤランタに夢中になり、何度映像を観たことか。

 

ヘンリク君の両親が来日し、お父さんはあのコンサートの観客だったことを知り、大いに盛り上がりました。

 

私がフィンランドを好きなのは、風変わりなユーモアを好み、権威を嫌い、人間関係がフラットだから。

カウチサーフィンでフィンランドを旅した時、「観光スポットじゃなくてフィンランドの生活が知りたい」とホストに話すと「子供が通っている小学校を見学してみる?」「一緒に職場に行こう」という展開に。小学校の先生は時間を割いてインタビューに応じてくれるし、職場の人々も見知らぬ外国人を歓迎してくれました。

 

ヘンリク君がフィンランドのスタートアップイベント「スラッシュ」の東京イベントや京都工芸繊維大学の交換留学で来日するたびに気楽に再会しているのも、フィンランド人の国民性が影響しているのでしょう。

 

そして、今回はフィンランド風のユーモアを楽しむために映画『ヘビィ・トリップ』を一緒に見に行きました。読むだけで笑いが止まらなくなると話題になったあらすじ。  

フィンランド北部、何もない田舎の村。退屈な日々を送る25歳のトゥロは、“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”というジャンルを標榜する、4人組ヘヴィ・メタルバンドのボーカルだ。バンドは結成から12年間、一度もステージに立つことなく、一曲もオリジナル楽曲を作ったこともなく、単なるコピーバンドだ。だがある日、遂に自分たちの曲を作るという強い意志のもと、メンバーの試行錯誤の末にとてつもなくキラーな名曲が誕生した。また同時にひょんなことからノルウェーの巨大メタルフェスの主催者がメンバーの家を訪れ、バンドに千載一遇のチャンスが舞い降りる。
バンド名は“インペイルド・レクタム"(Impaled Rektum ※直訳すると直腸陥没)に決定、ハイウェイの自動速度取締機を使って初のアーティスト写真も撮った。だがいざ地元のライブハウスで初の前座を務めたとき、緊張したトゥロが大嘔吐するという前代未聞の惨劇に終わった。ノルウェーのフェス参戦も水の泡と化し、バンドは敢え無く解散した。さらに愛すべきドラマーのユンキがハイウェイを爆走中にトナカイを避けて事故で死んだ。トゥロは亡き友人を想い涙し、自身の不甲斐なさを恨んだ。ユンキのため、仲間のため、そして自身のため、トゥロはバンドを再結成し、ノルウェーに乗り込む決意を固める。残された3人は盗んだバンに墓地から掘り起こしたユンキの棺桶を乗せ、精神科病院からドラマーを誘拐したのちノルウェーへと逃亡。フィンランド警察から追われ険しいフィヨルドを駆けながら夢のフェスを目指す。だが国境では彼らの前にノルウェーの “デルタ部隊”が立ちはだかる。進め!インペイルド・レクタム!目指せ巨大フェス!フィンランドが誇るインペイルド・レクタム誕生の瞬間を、メタル満載、盗難事件あり、バイキング船の堂々たる巡航あり、果てはフィンランドノルウェーの武力紛争にロマンスもあり!で描く、まさに破天荒な鋼鉄のロードムービーが日本上陸。


映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』予告編

 

シネマート新宿は封切初日のせいか、熱気に包まれていました。「世界一まずい飴」と書かれたサルミアッキの試食もあり、ヘンリク君は大喜び。「フィンランド人だから」と映画館のスタッフに告げると、「お昼の上映にはフィンランド大使も来て、たくさんサルミアッキを食べた」とのこと。

映画のチラシには「日本・フィンランド外交関係樹立100周年を祝う2019年を『ヘヴィ・トリップ』で締めくくるのは意義深いことです」というフィンランド大使のコメントが。おいおい、本気なのか。この映画のキャッチフレーズは「後悔するなら、クソを漏らせ!」なんですけど。

 

30年ほど前、アイルランドの国立日本庭園の記事を書いたことからアイルランド大使館のイベントに呼ばれるようになり、アラン・パーカーの映画『ザ・コミットメンツ』を大使と一緒に観たことがあります。ダブリンの下町で結成されたバンドを描いていて私はしっかり楽しみました。ところが観終わった大使は気分を害し「あんな汚い英語で映画を撮るなんて!」と吐き捨てていました。

アイルランドは土着のカトリックとイギリス系のプロテスタントで階級社会が続いているのでしょう。その点、フィンランドはフラットです。

 

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見渡したところ、観客にフィンランド人はヘンリク君一人でした。

 

上映が終わると、観客席から自然発生的に拍手が起こりました。そして売店には公式Tシャツを求める長蛇の列が。フィンランドの映画が日本でこんなに愛されているなんて。ヘンリク君は大感激でした。

 

帰宅後、この映画について語りまくりました。ヘンリク君によると台詞にはフィンランドスタイルのユーモアが散りばめられていて日本語字幕ではすべてが反映されていないだろうとのこと。ノルウェーのシーンもあったけれど、ヘンリク君の母語スウェーデン語でノルウェー語と似ているからだいたい理解できたそうです。

 

「仲間の棺桶と一緒にバンドが旅するのは、アキ・カウリスマキの『レニングラードカウボーイズ アメリカに行く』へのオマージュだろう」と私。

「すごい、フィンランド人の僕でもそんなことは知らない」

そりゃそうでしょう、レニングラードカウボーイズの映画はヘンリク君が生まれるずっと前に作られたのですから。


Leningrad Cowboys Go America Movie Clip

 

レニングラードカウボーイズに始まり『ヘヴィ・トリップ』のインペイルド・レクタム(直訳:直腸陥没)へ。ずいぶん長い旅路でした。