翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

老いの後始末

お正月早々、ぎょっとしたことがありました。

就寝中、玄関からガチャガチャという音がして目が覚めました。リノベをしてリビングと寝室をつなげたので、玄関と寝室はドア一枚隔てているだけです。

最初は「上か下の階の人が酔っ払って帰り、間違えて玄関を開けようとしている? そのうち気がつくだろう」と思いました。マンションの入口はオートロックだし、エントランスとエレベーターに防犯カメラも設置され、賊の侵入は聞いたことがありません。

しかし、音は延々と続くのですっかり目が覚めて時計を見たら午前4時! 飲み屋の帰りにしては遅すぎます。どうしようと躊躇しているうちにドアが開きました。そういえば前夜は夫と近所の銭湯サウナに行くはずだったのに、空腹で帰宅した夫に食事を出しているうちに寒くて面倒になって中止。夫はまた外出するからと鍵をかけてなかったのです。

「誰か入って来た!」と熟睡する夫を起こしました。警察に通報するのも、武器になりそうな登山用のトレッキングポールを用意するのも、もう手遅れ。

暗闇の中で夫が「誰だ!」と声を出すと「そんな大きな声を出さんでも…」と弱々しい声が返ってきました。

聞き覚えがある声…お隣のご主人? 「○○さん?」と名前を読んで部屋の電気をつけました。

 

お隣のご主人は70代後半ぐらいで、数年前に旅先で骨折して以来、杖をつきながらゆっくり歩くようになりました。リハビリを兼ねて外出することを勧められているのか、よく近所のコンビニまで出かけているようです。介護ヘルパーさんもちょくちょく出入りしているようす。

このマンションに入居以来20年以上のお隣さん。ちょっとしたものをいただいたり、夫婦二組で飲んだこともあります。カウチサーフィンやホストファミリーで我が家に外国人が出入りすると、お隣の奥様が流暢な英語で会話。MBAホルダーのバリキャリ女性です。

先日、お隣のご主人とエレベーターで一緒になったとき、私のことを「同い年くらい」と言うのでちょっとそれは無理があるんじゃないかと思いました。一回り以上離れているし、そのときの私はスポーツクラブのヒップホップレッスンの帰り。杖をついてよたよた歩いている人と一緒にしないでほしいというのが本音でしたが、あいまいに受け流しました。

夫に言うと、「基準をどこに取るかによる。戦後生まれという点では同じ」。たしかにそうですが、お隣のご主人の脳、徐々に異変が生じているのかもしれません。

外は真っ暗、かなりの寒さの午前4時に外出って、まさか徘徊? しかも自宅の家と間違えて、隣の家の鍵を開けようとして、鍵が合わないのに気がつかないのは…。

 

スポーツクラブで聞いた話を思い出しました。

ラテンダンスのクラスで一緒に踊っていた女性。センスがよくてお洒落、ダンスも上手です。数年前に高齢でクラスを引退し、スポーツクラブも退会。

その方と久々に駅前で会って挨拶したら「家がわからなくなった」という衝撃の発言。自宅を知らないので困ってしまって、交番で相談。お巡りさんはバッグの中を見る権限があり、保険証を発見。住所がわかったのでタクシーに乗せたそうです。パトカーで送ってくれないのかと思いましたが、交番が留守になってしまうし、そこまでやったら切りがないのでタクシーを使うことになっているのでしょう。

「あんなにしっかりしていた〇〇さんが…」と顔を見合わせ、明日は我が身と暗い気持ちになったものです。

 

私の母もパーキンソン病の薬の副作用で幻覚が出て、「会合の予定がある」と近所の家のインターホンを押したことがあります。謝罪にうかがいつつ、これからどうなるんだろうと目の前が真っ暗になったのを思い出しました。

 

体の衰えも不安ですが、脳の衰えにはどう対処したらいいのでしょう? 徘徊して事故や犯罪に巻き込まれたり、自宅から火を出したりする前に、施設に入るべきでしょうが、その判断を自分で下せるでしょうか。

 

そんな不安から死後の一切合切を任せられるNPO法人と委託契約を結びました。

uranai8.jp

会員同士の交流イベントはコロナで中止となりましたが、年に一度の見守り訪問は続いています。自立して生活できているかどうかのチェックなのですが、訪問するスタッフの方が私より年上で、今のところは茶飲み話で終わっています。将来的には、費用が許す範囲で、自分に合った施設を選ぶための大きな助けになるだろうと期待しています。

施設に慣れるために早めに入所して、アクティブに過ごしていたら入所者から仲間外れになったという記事を読んだので「自由に旅に出ても孤立しない施設はあるのでしょうか」と質問したところ、「切符や宿を自分で手配して旅行に出かけるうちは施設なんか入らなくていいでしょう」と返されました。たしかに。ネット予約ができなくなり、長い距離を歩けなくなって旅をあきらめるまで、脳が正常に働いてくれますように。

 

網走刑務所への橋。

父は「監獄みたいだ」と施設を嫌がり、ぎりぎりまで自宅で一人暮らしをして、観念して施設に入所しました。私はそこまでがんばる気力はなく、日常生活がしんどくなったらどこかにお世話になりたいと思っています。塀の中も外も俗世ということでは同じでしょう。