伊豆畑毛温泉誠山では同行した杏子さんから「お湯に入り過ぎて体が溶けるんじゃないか」と心配されるほど長湯を楽しみました。
加熱した41℃のお湯に入って温まり、30℃の源泉へ。体が冷えてきたら35℃か再び41℃のお湯へ。露天風呂という選択もあります。最初は4種類もあってうれしかったのですが、だんだん選択するのが面倒になって30℃と41℃の往復になりました。自在館や元湯橋本屋では「あたたかい」「ぬるい」の2種類しかないので、何も考えずにお湯に没頭できたのです。
どんな名湯でも、一種類の温度しかない温泉宿ではもう満足できないでしょう。選択がぐっと狭まったわけですが、宿選びに迷うことがなくなりました。
お湯の質より温度にこだわりがありますが、自分にとって適温は何℃と言い切ることはできません。その日の天候と体調に左右されるし、体が温まったら冷たいお湯が心地いいし、冷えた体で温かいお湯に入ると心も体もゆるんできます。
茹でガエルにならないために、この感覚を忘れないようにしないと。
熱湯に突然入れられたカエルは跳び出しますが、水に入れた状態でゆっくり沸騰させるとそのまま茹でられて死ぬという話。
3月にホルムズ海峡が封鎖されて日本は大変なことになるとおびえたのに、6月を迎えても平穏な日々が続いています。来週に迫ったニューヨーク行の航空便も運航状況を見ると毎日飛んでいて、燃料より台風のほうが心配です。
私にとっての旅は、その時々での適温を探すプロセスです。
東京では店に行けば何でも手に入り、繁華街はどこも人でいっぱい。このまま平和で豊かな日本が続いていくような気になってしまい、まさに茹でガエル状態。旅に出ると昨日と同じ日常が明日も続くわけがないと実感できます。

誠山の最終日の朝はいかにも日本旅館らしい和食でした。
朝食前に最後の朝湯。「おはようございます」と元気に挨拶してくれた82歳の女性。私と同じぬる湯好きで、各地の温泉に一人で出かけているそうです。お互いのお気に入りの温泉の情報交換。息子さんからは「一人旅が危なくなってきたら止めるけれど、今は大丈夫」と太鼓判を押され、娘さんが各地のぬる湯温泉を調べてくれるそうです。誠山には最初家族で来て、すっかり気に入ったので一人で通っているとのこと。
相手が年齢を教えてくれたので私も「65歳です」と自己紹介。「あらいいわね、若い!」と返されました。
ネットで見つけた文章を思い出しました。
I saw a girl say that when she feels stuck, she imagines she's 85 years old and gets one chance to come back to her younger self for one day, suddenly, everything feels like magic again, the walk, the music, the sunlight, live everyday like that.
行き詰ったらと感じたら、85歳になった自分を想像して、たった1日だけ若い自分に戻るチャンスをもらったと考える。すると突然、すべてが魔法みたいに感じる。散歩も、音楽も、日光も。毎日そんな風に生きなさい。
「85歳までは一人旅を続けたい」と語る82歳の女性。「こんな風に年を重ねたい」と感じるロールモデルに出会えました。
お互いに好きな温泉の情報交換。朝食会場で再会したら、早速スマホのメモに書き込んでいました。デジタル機器もちゃんと使いこなしているのです。話すことがいっぱいありすぎて名前も聞かなかったけれど、お互い同類だということがすぐにわかりました。ぬる湯の温泉のどこかでまた再会できるかもしれません。