翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

いつまでも続く長い放課後

小津安二郎のドラマ『青春放課後』を先日、NHKテレビで観ました。
最初に放送されたのは、1963(昭和38)年。小津は里見紝と共同で脚本を手がけてています。
映像は現存していないとされていましたが、約50年ぶりに見つかり、再放送されたのです。

日本映画はめったに観ない私が小津安二郎を意識するようになったのは、アキ・カウリスマキのおかげ。一昔前の日本人の姿が美しく描かれている作品が多く、楽しめます。

「婚期を逃しかけた女性」は小津映画でよく取り上げられるテーマですが、『青春放課後』では、ヒロインの小林千登勢がそうした役を演じています。
当時の平均初婚年齢は、男性が27歳、女性が24歳。今と違って、20代後半にさしかかった女性は、結婚をあせることが多かったのでしょう。

ヒロインはこんなことを語ります。
「学生時代の友人はほとんどお嫁に行き、同じクラスの中で独身なのは、私ともう一人だけ。放課後、校庭で遊んでいるうちに、日が暮れてきて、みんな家に帰ってしまい、その子と私だけ、校庭に取り残されたような寂しい気持ちになる」

放課後、ずっと校庭で遊んでいる人生。
小津の時代には、肩身の狭い生き方だったでしょうが、平成も四半世紀が過ぎると、それも悪くないんじゃないかと思えてきます。

同窓会などで昔の友人に近況報告をすると、「なんだか学生のままの生活だね」とよく言われます。
そう言われてみれば、学生時代のレポート提出をそのまま仕事にしたようなものです。
課題を与えられ、取材したり、学んだ知識を活かして規定の文字数にまとめる仕事。結婚はしているものの、子供がいないのでずっと仕事中心の生活を送ってきました。フリーランスの特権を生かして、休暇は長めに取り、旅行に出かけます。

学生時代の友人はまじめなタイプが多かったので、ほとんどが立派に子供を育てています。
友人は子供の受験に心を砕いているのに、私が考えるのは占い学校で次はどの講座を受けるか。まるで、自分だけ放課後の校庭にいるような状況でした。

いつまでも続く長い放課後を、退屈しないで過ごすにはどうしたらいいか。
結婚しなかったり、子供を持たない生き方が増えると同時に、平均寿命も延びました。
校庭で遊ぶのをやめて家に帰った子が、再び戻ってくるかのように、友人たちの子育ても徐々に終わりつつあります。
フィンランドから遊びに来る人もいます。そして、ブログを通してネット上で知り合った人たち。
そういう友達も交えて、新しい楽しみ方を次々と探したいものです。


9月初旬のフィンランドの夕暮れ。日本育ちのヴィッレのお宅で夕食をふるまってもらった帰り道。ハメーンリンナは森と湖、お城のある美しい街です。村上春樹の「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」で、フィンランド人と結婚した日本女性の一家が、夏を過ごす別荘を持つ地として描かれています。