翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌やビジネス誌の原稿書きを30年。現在はリタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。2025年夏、ガルシア=マルケスの作品舞台となった地を一目見たくてコロンビアへ。ウラナイ8https://uranai8.jp/で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで四刷になりました。

コロンビア化する日本

コロンビアの旅の前に、ガルシア=マルケスの全著作を読みました。再読を重ねている『百年の孤独』『コロナの時代の愛』といった小説に加え、ノンフィクション作品にも改めて感銘を受けました。

 

bob0524.hatenablog.com

 

『誘拐の知らせ』を読むと、1980年代から90年代のコロンビアは麻薬密輸組織が社会にはびこり、どうしようもない状況だったことがわかります。格差も激しく、誘拐される側はエリートの家系なのに対し、誘拐の見張り役は貧しい生まれでまともな職業に就くのはむずかしく犯罪に手を染めるしかなかった若者たち。誘拐の全容がばれないように、役目が終わったら殺されるのではないかとおびえていました。番人たちも監禁されているのも同様で、監禁場所である家の他の部分に出入りすることは許されてなく、非番の時間には逃げ出さないよう鍵のかかった別の部屋で眠るだけです。

 

闇バイトに走る日本の若者の姿に重なりました。母親のために死ねるというのは日本だと過度のマザコンですが、カトリックの国では聖母マリア信仰の影響でしょうか。

彼ら全員に共通しているのは、絶対的に宿命を信じていること。いずれも、自分が若くして死ぬことになるのを知っており、それを受け入れているため、現在を生きることにしか関心がなかった。忌まわしい仕事をしていることを自分自身に対して正当化する言い訳としては、家族を助けるため、いい服を買うため、バイクを手に入れるためといったもののほかに、自分の母親の幸福を願うためという理由があった。彼らは母親のことを誰よりも愛していて、彼女のためならいつでも死ぬ覚悟ができているのだった。

夫は国会議員でキャリアウーマンのマルーハは、監禁役の若者たちにも心があると気付きました。そのうち、閉じ込められた暮らしの孤独を分かち合うようになりました。新しく来た4人の男の子は規律があって会話好きで真面目。一緒にファミコンのゲームをプレイして一気に距離が縮まりました。これは麻薬密輸組織の上層部の戦略で、人質の精神状態と体調が悪化していることから送り込まれたのです。

 

彼らもまた囚人のようなものであって、彼女を必要としていることがわかったマルーハは自分の3人の息子との経験などを話して聞かせ、信頼関係が作られ、彼も自分の人生について語るようになった。

彼らはいずれも中産階級の出身で高校を出ていたが、麻薬の密輸組織に牛耳られたメデジンの荒廃した文化によって、悪の道以外に出口が見つからなかった。

 

解放直前、彼らはマルーハに、「自分たちのために祈ってくれるように、そして、自分たちのことを忘れずに、悪の道から出られるよう何とかしてほしい」と頼んだ。マルーハは「何でもするわよ。私が必要になったら、捜して訪ねて来なさい。助けてあげるから」と応じた。

男の子たちの出身地メデジンは首都ボゴタに続くコロンビア第二の都市。パブロ・エスコバルが麻薬密売組織のメデジン・カルテルを結成した地です。

残念ながら、その後のマルーハと男の子たちの交流は描かれていませんが、絶望的な生い立ちの彼らにとって、マルーハと知り合えたことは大きな意味があったことでしょう。

麻薬密輸組織との人質解放の交渉にあたった夫とマルーハは一連の記録を書いてもらうようにガルシア=マルケスの依頼。そのおかげで、この感動的なノンフィクションが読めたわけです。

 

アンデス山脈の盆地に位置するボゴタは、夏でも最高気温が20度ほどのさわやかな気候。高層ビルの背後にある独特の光景が広がります。

 

1993年のパブロ・エスコバルの死去によってメデジン・カルテルは壊滅。フェンタニルのような合成麻薬が台頭してコカイン需要が減ったこともあり、コロンビアは平和な国に。一方、一億総中流社会だった日本はすっかり格差社会となり、麻薬がらみのニュー卯も耳にします。日本はかつてのコロンビアのような国になっているのかもしれません。