易や四柱推命、九星気学といった東洋占術を専門としていますが、タロットも大好きです。
伊泉龍一先生のタロット講座で1年間学びました。
最も心惹かれるのは、大アルカナ0番のカードである愚者。
しかし初期のタロットカードでは少しも魅力的ではありません。
伊泉先生の「タロット大全」(紀伊国屋書店)によると、このカードの初期の呼び名は「狂人」。
発狂して自らの衣服を荒々しく引き裂き、住居不定の放浪生活を送る人。
タロットが誕生した中世ヨーロッパのカード、たとえばヴィスコンティ・スフォルザ版では、ボロボロの衣服を身につけた半裸の男が描かれています。
17世紀になると愚者は道化へとバージョンアップします。
シェイクスピアの「リア王」を見てもわかるように、ヨーロッパの宮廷では、王にたいしてもっとも正しく正直なことをいえるのは、道化であった。道化は愚かしさの象徴であると同時に、日常の常識とは関係のない、透明な視点からものということができる力をもった異人なのだ。
「裸の王様」のお話に出てくる子どもの目。それをもっている、聖なる狂人=愚者が、この道化なのだった。
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さらにウェイト・スミス版になると、愚者は最高に魅力的になります。
断崖絶壁を颯爽と歩く若者。天から日がさんさんと降り注いでいます。足元には従者のような白い犬。肩に担ぐのは最小限の荷物。気の向くままに世界を旅するバックパッカーのようです。
大多数の人は定住を余儀なくされ、畑を耕したり、橙受け継いだ商売に従事する時代に、才能だけで世の中を渡り歩く自由人。
それは決して平坦な道ではなく、断崖絶壁から足を踏み外して命を落とすリスクだってあります。
王様に好き勝手に放言しているようで、道化の中では冷徹な計算力がフル回転しています。目まぐるしい芸能界で常に人気を維持するお笑い芸人と同じです。
自分にはそこまでの才能には恵まれていなくても、少しは自由に動ける力ぐらいはあるんじゃないだろうか。
そう考えてフリーランスの道を選んで20年以上が過ぎました。
若い人のような、何者かにならなくてはいけないという呪縛からは自由になり、才能のない愚者でも、それなりに生きていけるのではないかと楽観しつつあります。
愚者はこのまま東京でふらふらと生きていくのか、ヘルシンキまで飛んで行ってしまうのか。
2月4日の立春は東洋占術家にとって一年最大の節目です。
癸巳の年は、火にあおられて水が蒸発して飛び回るイメージ。「愚者」の生き方を再認識する年となるでしょう。
左からヴィスコンティ・スフォルザ版、マルセイユ版、ウェイト・スミス版、ボヘミアンキャット。