三宅夏帆『娘が母を殺すには』で紹介されたキム・ヘジン『娘について』を読んでみました。
語り手は60代の母。一人娘とうどんを外食するシーンから始まります。
「若い頃はしょっちゅう麺類を食べていたけれど、今はなかなか消化できず胃がもたれる」
「しわとしみに覆われた顔。薄くなった髪と少し曲がった背中。誰がいつ、私に対する露骨なまでの不快感をあらわにするかわかったものではない」
今の60代はこんなに老けてないだろうと突っ込みたくなりますが、読み進むうちに彼女が積み重ねてきた苦労が浮かび上がります。子育てのために教師を退職。夫が亡くなり、生活のために壁紙の張替え、幼稚園の送迎バスの運転、保険のセールス、社食で調理といった非正規の賃仕事を転々とし今は高齢者の介護施設で働いています。
日本も苦しいけれど、韓国も大変。「とどまるところを知らず、怖ろしい勢いで跳ね上がり続ける家賃」とあり、韓国が日本よりも深刻な少子化に陥った背景がうかがえます。
30代半ばの娘も生活は楽ではありません。大学院まで出たのに「よくわからないプリントと本の入った、大きな石みたいな鞄を肩にかけて、全国を日がな一日渡り歩く行商講師」にしかなれませんでした。
そして、母が最も受け入れがたいのは、娘が同性愛者でパートナーの女性と暮らしていることです。
「私はお前を育てるために職場からなにから全部捨てた。お前がすべてだと思って生きて来た。それなのにどうしてお前は事あるごとに私を失望させたり、悲しませたりできるんだい、わざとやっているのかい?」と母は娘を非難。
娘は自分は間違っていないと言い返します。
「ただあるがままに、そうなんだって受け入れてくれたらだめなの? 細かいとこまですべてを理解してくれって言ってるわけじゃないでしょう。世の中にはいろんな人がいるんでしょ? それぞれの生き方があるんでしょ? 人と違うのは悪いことじゃないんでしょ? これって全部、母さんが言ったことじゃないの? それなのに、どうして私だけがいつも例外なの!」
母親が働く介護施設で担当しているのがジェンという女性。アメリカで学び、ヨーロッパで活躍し、韓国に帰国後は恵まれない人のために尽くした著名な女性なのですが、身寄りがいません。かなりの金額を払って入所したのに、実態は経費削減のためにおむつや消毒ガーゼを切って数回に分けて使うような施設です。
正義感の強い母はジェンを自宅に無理やり引き取り、看取りました。
斎場の職員から喪主の名前を聞かれ、娘が名乗り出ると「喪主は普通、男性がやるものですよ。男性はいらっしゃらないのですか?」と言われます。
5年前の父の葬儀では、兄の状態が悪かったため私が喪主の挨拶をしましたが、何の問題もありませんでした。韓国は日本より男尊女卑が徹底しているのでしょうか。

ソウル、江南のお洒落なカフェ。
BTSの聖地巡りが楽しくて何度か韓国を訪れていますが、この国の表層をながめていただけです。
韓国が通貨危機に陥りIMFに救済されたのは1997年。IMFからの借金は2001年に返済を完了していますが、映画『パラサイト』に描かれたように庶民の生活には大きな爪痕を残しました。行き過ぎた円安が続けば、日本も通貨危機になるのではないかと言ったら、心配し過ぎだと友人に笑われました。杞憂で終わればいいのですが。
