宗教学者の植島啓司は1年のうち200日を旅をして過ごすそうです。世界各地のフィールドワークでしょうか。いいなあ。宗教学とか文化人類学の学者になればよかった。でも、下世話な文章しか書けないので論文は無理です。得意なことを仕事にして、得たお金で旅をする生き方を選びました。
旅の効用の一つが、生きていくために必要な物はそんなに多くないと実感できること。世界のどこへでも機内持ち込みサイズのバックパックで出かけられる自信があります。
この本で興味深かったのが、世界幸福度ランキングの話。
定期的な面接調査を実施しているワールド・バリューズ・サーベイの世界価値観調査の2008年の順位。
1位 デンマーク
2位 プエルトリコ
3位 コロンビア
日本は43位。
そして、イギリスのシンクタンク、ニュー・エコノミクス・ファウンデーションの2006年の調査。
1位 バヌアツ
2位 コロンビア
3位 コスタリカ
日本は95位。
どちらもコロンビアがベスト3に入っています。実際にコロンビアを旅して十分に納得できます。出発前は危険なイメージを抱いていたのですが、陽気で親切な人ばかりでした。プエルトリコやコスタリアもそんな感じなのでしょう。
植島啓司の解説。
中南米の国々はダンスや音楽を好み、今日できることは明日やればいいとする楽天的な国民性。日々、偶然に身をまかせて、多少いいかげんに過ごし、起こったことにくよくよしない。それに加えて、誰にでも起こる病気や死とかを不幸だと思わない。

即興のラップで日本について歌ってくれたボゴタの青年。写真も撮らせてもらいました。
「生きることは旅すること」と植島啓司は言い、旅と観光は正反対の概念だと定義しています。
観光はすでに知られた土地を周遊すること。
旅は未知の領域に足を踏み入れること。
スケジュールがあってそれに従って移動するのが観光で、明日のこともよくわからないまま移動するのが旅。一方はどこに行こうが日常の延長であり、一方はどこにいても非日常であり、予測しないことが次々と起こる。
そう、私が望んでいるのは観光ではなく旅です。予測しないことが次々と起こり、多少のトラブルがあってもそれをおもしろいと感じる人でありたい。
そもそも旅をするということは、日常から離れて弱者になること。そこでは常に自分は少数派でしかない。その国の法律や約束事に従わなければならない。常に「あれをしてもいいのか、これをしてはいけないのか」と考えざるをえない。自分の国や社会にいれば何も考えずに済む厄介ごとが次々と降りかかってくる。
自宅にずっといて、決まった場所しか行かないようでは世界の変化から取り残されて老害と化してしまいがち。旅に出てあえて弱者や少数派になることで、頭を柔軟に保てるのではないかと期待しています。

コロンビアのエメラルド博物館で見たエメラルド産出国の地図。南米とスペインの近さと日本がファー・イースト(極東)と呼ばれるのがよくわかりました。こうして異なる視点から世界を眺めるためにも、旅に出る意味があります。
