ありきたりの観光スポットや旅先のグルメにはあまり興味がなく、質実剛健な旅が好き。クルーズとは無縁のはずでしたが、近所のマダムから飛鳥Ⅱの体験談を聞き、がぜん興味が湧いてきました。MBAホルダーにして公認会計士、定年後も数社の社外取締役を引き受けているバリキャリ女性です。
仕事が一区切りついたので、自分へのご褒美として飛鳥Ⅱで世界一周。しかもシングルユースですから、二人分に近い料金でしょう。ユニークなのは、それまでさんざん出張で世界を飛び回ってきたから、寄港地でほとんど下船せず船内にとどまるというスタイル。クルー(乗組員)と親しくなり、着岸時に操舵室に招かれてパイロット(水先案内人)の仕事ぶりも見たということです。
そんなことを聞いて、クルーズを一度体験してみたくなました。アメリカでは養老院代わりに乗船して死ぬまで乗り続けるシニアが急増しているとか。死後の手続きさえ整えておけばそんなことも可能なんでしょうか。

飛鳥Ⅱは世界一周だけでなく、日本各地を巡る短いクルーズもあるます。選んだのが3泊4日の沖縄クルーズです。那覇港を出て、宮古島、石垣島に各一泊し那覇に戻ります。一人だと割高になるので夫を誘いました。
至れり尽くせりの船の旅。
一番気に入ったのは大浴場。サウナと水風呂も完備。露天風呂から見渡す海と空に、こんな贅沢な経験が他にあるだろうかと感じ入りました。
乗客はほぼ日本人。何度もリピートしている飛鳥ファンが多いようでした。サウナで会った女性は「贅沢だけど、仕事の励みになるから定期的に乗ることにしている」とのこと。熊本の方で八代港から出るクルーズに乗ったのがきっかけだそうです。
熊本と言えばサウナの聖地「湯らっくす」があります。話を振ると「値上がりしたからあまり行かなくなった」とのこと。飛鳥クルーズの費用を考えれば、些細な金額ですが、自分が本当に好きなものを心得て、めりはりのある使い方をしているのでしょう。
別の女性は趣味の社交ダンスを楽しむ場として飛鳥を選んでいるそうです。夕方の社交ダンス教室は初心者も参加できますが、ダンスのエキスパートがここぞとばかり軽やかなステップを披露しているのでしょう。
熱烈な飛鳥ファンがいる一方で、私は借りてきた猫状態。飛鳥の世界にひたることができず、ずっと傍観者で、記事を書くわけでもないのに人の話ばかり聞いていました。
二日もいれば巨大な船内もほぼ回ったし、三泊四日は長すぎたかと思う始末。豪華は豪華だけど、籠の中の鳥のよう。その地にどっぷりなじむ暮らすような旅が理想なのですから、とても世界一周はできません。
そうした気持ちで迎えた朝も、目覚めたらすぐ大浴場へ。石垣島へ入港するまでは露天風呂に入れます。静かに進む船の上から見た日の出は、沖縄の青い海によく映えて、神々しさに心が揺さぶられました。与えられた瞬間を素直に受け容れようという殊勝な気持ちが湧いてきて、不平不満が芽生えたら「石垣島の日の出」という呪文で封じることができそうです。