翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌やビジネス誌の原稿書きを30年。現在はリタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。2025年夏、ガルシア=マルケスの作品舞台となった地を一目見たくてコロンビアへ。ウラナイ8https://uranai8.jp/で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで四刷になりました。

「太ったおばさん」のために歩く

「人の老害見て我が老害直せ」のブックマークで、id:toikimiさんが「隙自(すきじ)という言葉を教えてくれました。「隙あらば自分語り」という略語だそうです。

まさに、言いえて妙。占い師がお金をいただけるのは、思う存分、自分語りを聞いてあげる面もあり、お金も払っていないのに延々と自分語りをしていれば嫌われます。

 

人は誰しも「自分を知ってほしい」「すごいと思ってもらいたい」という欲を持っているのでしょう。

そこで思い出したのがサリンジャー小説『フラニーとズーイ』(40年以上前は『フラニーとゾーイー』でしたが、村上春樹訳ではZooeyはズーイとなっています)。巡礼の道を歩くきっかけとなった一冊でもあります。

 

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アメリカ東部のスノッブな大学に通うグラス家の末娘、フラニー。「結局、みんなエゴを振りまいているだけじゃないか」と、精神を病んでしまいます。知的エリート階級を自負している大学生ですから、あからさまな隙自ではなく、さりげなく「自分は一般の俗物とは違う」とアピールします。

 

ラニーが愛読していたのが『巡礼の道』。ロシア人の農夫が「休むことなくただ祈るための方法を求めてロシア中を徒歩で回るという話です。

なんとか妹を救おうと言葉をかけるズーイ。俗物を嫌って、自分の殻に閉じこもろうとすること自体が俗物だと批判もします。最後に出てくるキーワードが「太ったおばさん」です。

 

グラス家は芸能一家で、7人の子供たちは次々と「イッツ・ア・ワイズ・チャイルド」とうラジオ番組にレギュラー出演してきました。

一番上の兄のシーモアは、ラジオ番組のために外出しようとするズーイに「靴を磨いていけ」と言います。ズーイは誰からも靴は見えないと反抗します。そこでシーモアは「太ったおばさん」のために靴を磨けと言うのです。

 

そこでズーイが太ったおばさんをリアルに想像します。病気を抱えていて一日中ポーチに座って朝から晩までラジオをつけっぱなしにしています。ラジオが唯一の楽しみなのだろうから、そこに出演する自分はきちんとしていなくてはいけません。

ラニーもシーモアから「太ったおばさんのために何か愉快なことを言うんだよ」と言われてきたので、話はすぐ通じました。

 

そして二人は悟ります。どこに行こうとも、太ったおばさんじゃない人間なんて誰一人いない。そして、太ったおばさんというのは、実はキリストその人だと。

 

スマートに自分語りを織り込む人も、隙自もすべて、太ったおばさんでありキリストです。自分語りをする人をすべてシャットアウトするのではなく、ある程度は大目に見なくては。

太ったおばさんのために、生活を整え、周囲を少しでも気持ちよくさせる言葉をかけたいと願いながら毎日歩き続けるのが理想です。

 

アストロガの司教館。十字架にかけられたイエスより、こうした素朴なキリスト者の像が好みです。