翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

巡礼という長い夢の終わり

本来ならスペイン巡礼のフランス人の道は、ピレネーの麓のサンジャンピエドポーから聖ヤコブを祀るサンティアゴデコンポステーラまでに全長800キロ。ゴールまで100キロ余となったのサリアで巡礼を終えます。

というのも、サリアからはぐっと歩く人が増えて巡礼というより観光ハイキングみたいになるとさんざん聞いたからです。宿の争奪戦も激しくなるし、カトリック教徒でもない私が巡礼証明書を求めて歩く必要もありません。

ゴールのサンティアゴまで行かなくていいということで、善意の人々が集うコミュニティのようなカミーノを自分のペースで楽しむことができました。生きる苦しみや喪失感を抱えた人は「いつまでも巡礼を続けたい、帰りたくない」と感じるそうですが、東京で気ままな生活を送っていた私はちょうどいい潮時のように感じます。

 

明日は特急列車でマドリードに出ます。鉄道の駅に向かっていると「道をまちがっているよ」と声をかけられるかもしれません。巡礼証明書がもらえる最短距離の出発点であるサリアまで鉄道で来て歩き始める巡礼者が大半の中、その反対を行くのですから。

敢えてサリアで巡礼を終えることで、カミーノを歩いている気持ちを忘れずにすむのではという期待もあります。サンティアゴまで行ってしまうと「フランス人の道を制覇した。さて、次の挑戦は?」となりそうですから。

 

日本を発ってからの巡礼の日々は夢を見ているかのようでしたが、歩きながら第一日目からの出来事を何度も思い返していました。むしろ出発前の日本での日々をどう過ごしていたか、ぼんやりとした記憶しかなく、どちらが夢か現実かわからなくなります。

とはいえ、明日のマドリードで巡礼の魔法が解けます。大都市に場違いな登山スタイルの老婆となり、「ブエンカミーノ(良き巡礼を)」という挨拶を封印し、出会う人すべてが親切で助けてくれるなんて甘えた気持ちを捨てなくてはいけません。

 

カミーノのあちこちでデザイン化された巡礼者を見ました。タロットなら愚者か隠者。別名「星の巡礼」とも呼ばれるので星のモチーフもあります。

愚者はいつか旅を終えなくてはならないし、隠者は砂時計を持つ「時の老人」でもあります。どんなにゆとりのある日程で歩くにしても、ほとんどの人は帰りの便を予約し日常生活に戻っていくのです。ただ、輝く星のような巡礼の記憶の数々は忘れたくありません。