帯広の温泉サウナ「ローマの泉」には食堂があります。ネットにはわざわざ「イタリアンレストランではありません」と注意書きがありますが、現地に行けば一目瞭然。
ローマの泉の開店は午前11時。少し早く到着したので入口の前で待っていると、食堂の名物女将さんから声をかけられました。
この5月で80歳になったという佐藤ハルさん。ほぼ毎日、一人で食堂を切り盛りされています。
「お元気ですね。よく続けられますね」と感心すると、
「体が覚えているから。調理場に入ると自然に体が動く」とのこと。
専業主婦だったハルさんがローマの泉で働き始めたのは40代で、最初はお風呂の掃除担当でした。食堂で働くようになって調理師免許を取得。食堂の壁に免許が飾られていました。
ファミリーサウナを堪能し、12時半に食堂へ。注文したのは名物の醤油ラーメン。
素朴な見た目ですが、スープはハルさんが数時間かけて仕込んだもので、入浴後の体に滋味が沁み通るようなおいしさでした。
食べ終わって、他のお客さんがいなかったのでハルさんと少しおしゃべり。
「ハルさんは、春に生まれたからハルさん?」
「田舎だったから届を出しに行く役場が遠くて。父親が役場まで歩いているうちにぱっと思いついた名前」
5月は東京なら初夏ですが、帯広なら春真っ盛りでしょう。1943年、戦争中の暗い日々ですが、白樺の林の緑が茂るさわやかな陽気。生まれたばかりの娘には春のようなおだやかな人生を送ってほしいという願いが込められていたのでは。
「YouTubeにも出て、すっかり有名になってしまって」と照れていましたが、ハルさんの料理とおしゃべりを楽しみにやって来るお客さんは多いでしょう。
80代になっても働くのが好きというハルさんに対して、60代でもう働きたくないと引退を考えているのが恥ずかしくなりましたが、人それぞれ与えられた使命や器があります。
旭川の四條食堂の店主も、おそらく私より年上。ハルさんと同じく一人で店を切り盛りし、多くの客に慕われています。
そして、名物女将といえば、熊野古道のみゃあちゃん。野良猫だったので正確な年齢はわからないそうですが、15歳を超えていますから人間だったら70代半ばぐらいでしょうか。「熊野古道より、みゃあちゃんに会いたくて来るお客さんもいる」とご主人が言ってましたが、今の私もその状態。熊野古道をまた歩きたいとは思わないけれど、みゃあちゃんに再び会いたい。
高齢でもいきいき働いている女性たちと接して、人生に渇を入れなくては。老後をだらだら過ごさないための対策です。