映画『ノマドランド』がおもしろかったので、原作も読みました。そこでノマドたちの愛読書が紹介されています。
そのうちの一冊が『わたしに会うまでの1600キロ』。
欠損した家庭で育ち、自分の人生も失いそうになった若い女性シェリルが、生きる意味を見つけるために数千マイルのパシフィック・クレスト・トレイルを一人で歩き通すというノンフィクションです。
母親は19歳で妊娠し、結婚。結婚3日後に父は母を殴り、母は家を出て戻るの繰り返し。二人の娘と一人の息子が生まれたけれど、ついに離婚。
生活保護家庭のアパートで暮らしても、母の口癖は「うちは貧乏じゃないわよ 愛はたっぷりあるもの」。三人の子を精一杯育て、まともな男性と再婚したけれど、45歳にしてがんで亡くなります。
次女のシェリルは大学にも入り、幸せな結婚もしました。しかし、大学は中退し自らの浮気で離婚。最愛の母が亡くなり、ドラッグに手を出し望まない妊娠もして中絶。人生を立て直すために選んだのが、メキシコ国境からカナダ国境まで、アメリカ西海岸を南北に走るパシフィック・クレスト・トレイルを3か月かけて歩き通すという計画です。
全長1600キロという長さは、青森県から山口県ぐらいの距離。なにもそこまでやらなくてもいいのにと思いますが、これぐらいのインパクトがないと人生は変えられないのかもしれません。
シェリルが歩いたのは夏ですが、夏季の激しい暑さもあれば、標高が高くなれば凍えるほどの寒さ。コヨーテやガラガラ蛇などの野生動物も怖いけれど、もっと恐ろしいのは人間の男。そして食料から調理器具、テントまで一切合切を背負って歩くのです。それでも、パシフィック・クレスト・トレイルを歩く同士とのつながりが心の支えになります。
といっても、一緒に歩くわけではありません。歩くスペースは人それぞれだし、自分を見つめ直すために歩いているのですから。それに、最初は意気投合しても昼夜を通して一緒にいると合わないところも出てくるでしょう。だから、交流するのは中継点だけ。トレイルのところどころに置かれたノートへの書き込みも励みになります。
歩き通したシェリルは人生の再建にも成功。再婚して家族ができ、体験をまとめたこの本は映画化されました。
こういうハードな山歩きに挑戦しようとは思いませんが、生活に必要な最低限の物だけを持ち、時々気の合った人と交流するという暮らしにあこがれます。
晴れた日の函館・五稜郭公園。私が歩きたいのは、景色がよくて平坦な道。