先日のウラナイ8のMCの甘夏さんから「スペイン巡礼に行くことになったきっかけ」を聞かれました。大切な人を失って、死を受け入れるために歩く人もけっこういます。
『わたしに会うまでの1600キロ』も、そうした話です。
原題は”Wild:From Lost to Found on the Pacific Crest Trail"。
著者のシェリルの旅が始まるのは母が死ぬことを告げられたミネソタ州の小さな診察室です。最愛の母が45歳という若さで手の施しようのない末期の肺がんと診断されました。煙草も吸わず、健康志向の食生活を送っていたのに。
母の死から立ち直られず、自暴自棄の生活を送っていたシェリルは人生を立て直すためにパシフィック・クレスト・トレイルの単独走破を思い立ちます。
時は1995年。インターネットで情報を得る時代ではなく、シェリルは必要だと思われるものすべてをザックに詰め込みます。
フリースのズボン2本、長袖の保温下着、厚手のフリースのパーカー、ウールの靴下2足、パンツ2枚、薄手の手袋、日除け帽、フリースの帽子 雨天用のレインパンツ、
最初の中継地点に着くまでの食糧、14日分。
テント、寝袋、広げるとマットレスにもなるキャンプチェアー、ヘッドランプ、ロープ、浄水器、小型バーナー、ガスボンベ、ライター、大小の鍋、調理器具、サンダル、タオル、温度計、マグカップ、蛇に噛まれた時用の毒吸引キット、生理用品、万能ナイフ、小型双眼鏡、コンパス、コンパスの解説書、救急箱、トイレットペーパー1巻 洗面用具、防虫スプレー、日焼け止め、ランタン、ろうそく、水筒、ゴアテックスのレインコート、予備の電池、防水マッチ、ザックにかぶせる防水カバー、殺菌浄水剤、ブランケット、ペン2本、ガイドブック、愛読書、日記帳、運転免許証、現金、切手、友達の住所録、カメラ、ズームレンズ、小型三脚、フラッシュ。
そして水。2本の水筒に水を入れ、10リットル入りのウォーターサーバーも満杯に。
出発地点でザックを持ち上げようとしたシェリルは、体重の半分を超える重さを持ち上げるだけで苦労します。
原作の映画化でザックの巨大さが実感できます。
この映像に恐れをなして、荷物は最小限にしました。といっても、テントを張って野宿するパシフィック・クレスト・トレイルとは違い、スペインの巡礼路は村と村を結ぶ道を歩き宿に泊まるので、荷物はそれほど必要ではありません。
ガイドブックにはこう書かれています。
Anything you 're not absolutely sure you will use, don't throw it in "just in case".
使用するかどうか確信が持てないものは「念のために」荷物に入れないこと。
熊野古道で一日に10時間歩いた装備に寝袋とインナーシーツが加わりましたが、実際に担いでみて、これなら歩けそうな気がします。
トレッキングポールは機内に持ち込むことができず、預けるためには梱包しないといけないと聞き、現地で調達することにしました。巡礼のシンボルである帆立貝も手に入るでしょう。
熊野古道とは違い何日も連続して歩くのはかなり大変かもしれませんが、シェリルのこの言葉が支えです。
もつれた人生がこんなにもすっきりするとは驚きだった。意識が否応なしに身体の痛みに向くうちに、心の苦しみが薄れていった。気がつくと一粒の涙も流していなかった。