旅先で仕事をするのでノマドを気取っていたのですが、私がやっているのは気楽なワーケーション。不要不急の遠出はお叱りを受けそうですが、静かな一人旅で酒場にも近寄らず、ホテルの部屋でパソコンに向かっています。サウナと水風呂のある宿を選んでいますが、沐浴ならぬ「黙浴」の貼り紙が。昔は地元の方との会話は面白かったけれど、そこは我慢しなくてはいけません。そして釧路の道は広く、観光客が激減しているのでたまにしか人とすれ違いません。
あちこち飛べるのはJALの「どこかにマイル」のおかげです。6月のベストシーズンの北海道なんて選択肢に出ることがなかったのに、今年はどんどん出ます。JALが飛んでいるのは札幌、函館、旭川、帯広、釧路、女満別。どんな旅先が出るか試しに見ているつもりなのですが、鹿児島の指宿にも行きたいところがあるので北海道プラス鹿児島の組み合わせが出ると、つい申し込んでしまいます。そして今回の行き先は釧路。コロナ以前からリモートワークで編集者とのやりとりはすべてメールで、データはPDFで送ってすから、どこでも仕事ができます。
北海道の空港に降り立つたび、樹木の力強さに圧倒されます。東京とは異なるエネルギーレベル。そして、空は抜けるような青さで智恵子抄ではありませんが、私が東京で見てきた空は本当の空じゃなかったのかと思います。
しかし空港バスが釧路駅の近くまで来ると、なんだか物悲しい雰囲気。かつては道東最大の繁華街だったというのに。
炭鉱と水産業の衰退により、全国に先駆けて始まった中心地の空洞化。1976年に長崎屋、1981年にイトーヨーカドー、1989年にダイエーが開業しましたが、地元と共存共栄の理想的な関係だったそうです。
ところが2000年にオープンしたイオンモールがごっそりと客をうばい、長崎屋とダイエーが閉店。釧路中心街から人出が消えました。
出典はこの記事。
今では釧路駅から幣舞(ぬさまい)橋までの目抜き通りはシャッター街となり、テナント募集の貼り紙ばかりが目立ちます。
幣舞橋周辺の運河。語源はアイヌ語のヌサオマイで神を祀るための場所という意味。この橋から見る夕日は世界三大夕日だとか。あとの二つはインドネシアのバリ島とフィリピンのマニラ湾。
釧路にはドーミーインの上位ブランドのラビスタ釧路川がありますが、今回は一人なので天然温泉とサウナの評判が高いホテルパコにしてみました。
大浴場の構造がちょっと変わっています。受付が12階で洗い場と内湯が9階、サウナと水風呂が11階、露天風呂が12階にあり裸で階段を上り下りします。露天のドアを開けようとしたら男の人の声が聞こえて「まさか男風呂に迷い込んだのか」とあせりましたが、大型テレビの音でした。サウナだけでなく露天もテレビがあるのかとがっかりしましたが、夕日を見ながらととのうという最高の立地です。立ち寄り客の来ない朝の時間帯はほぼ貸切状態。部屋も新しくて気持ちよく、釧路川が見える窓に面した机もとても使いやすく、すっかり気に入りました。
観光名所にはあまり行かないけれど、釧路の街を衰退させたイオンモールはどんなところか見たくなって行ってみました。
釧路駅から4キロ、バス代は360円。車がないと、日用品を買いに気軽に行ける場所ではありません。
広大な駐車場にピカピカの店内。東京でおなじみのチェーン店がずらりと並んでいます。小田実の『何でも見てやろう』でアメリカをグレーハウンドバスで隅々まで回っているうち、似たような街ばかりでどこがどこかわからなくなったという一節を思い出しました。街の中心部は空洞化して、郊外の中産階級は休日になるとショッピングモールに繰り出す。釧路は日本で最もアメリカナイズされているのかもしれません。
夏至を過ぎたというのに、長袖のカーディガンを羽織っても肌寒いほど。避暑地としては最適で、海産物、野菜、乳製品、パンやお米、なんでもおいしい。港町だからなのか、釧路で接した人はよそ者にも親切でした。これほどの都市が衰退してしまうとは。
観光の語源は易の風地観の爻辞「国の光を観る」。釧路の光と影を観た旅でした。