「異常も日々続けば日常となる」という言葉がありますが、外出時は必ずマスクという習慣もすっかり身につきました。
緊急事態宣言の頃は、朝からドラマを見ても罪悪感はなく、お上の言う通りに家に閉じこもる模範的な国民になった気がしたものですが、社会は動き出しています。本業のライター業は先細りながらも続けていますが、編集者にも会わず、メールでやりとりして完了です。
仕事以外にやることはたくさんあるはずなのに、明確な締め切りがないとつい先延ばしに。これではいけないと、この本を読み始めました。
『意志力の科学』という本で知り、ずっと読みたいと思っていました。
GTDとはGetting Things Doneの略。
生産性向上コンサルタントのデビッド・アレンが提唱する方法です。アレンは空手を学んでいたことから、武道で言う「水のような心」、すべてのことをコントロールできている状態をキーワードにしています。
思えば時間に追われていた時は、心が乱れる隙もありませんでした。特に日本語教師時代は、月火水の授業を成立させるだけで1週間が過ぎていき、気が付いたら3年間が過ぎていました。授業が終われば学生の作文を回収して添削、次の課題を作りつつ、本業のライターでも締め切りは待ってくれませんから、完全な休日はほとんどありませんでした。外資系の学校だったのでお正月もお盆も授業があったし、息抜きの短い旅にも仕事をどっさり持参していました。へとへとになっていましたが、余計なことは何も考えなくて済みました。
それが一転して、ひたすら怠惰な日々。 時間ができたらあれもやりたい、これもやりたいと思っていたはずなのに、気がつけば時間だけが流れて、頭の中はぐちゃぐちゃです。
GTDの基本はすべてをリスト化してファイルを作り、頭の外に追い出すこと。
デビッド・アレンによると、脳の短期記憶はコンピュータのメモリのようなもので、ほとんどの人はメモリ以上の「気になること」を抱えています。 容量ぎりぎりのパソコンで作業をしているようなもので、脳に負荷がかかって集中できず、常に気が散ってしまうのです。
ステップは5つ。
1 気になるすべてのことを「把握する」。
2 それぞれが何を意味するか、どのような対応をすべきかを「見極める」。
3 2のステップによって明らかになった内容を「整理する」。
4 行動の選択肢を「更新する」。
5 何をするべきかを「選択する」。
大企業のCEOじゃあるまいし、こんなステップをいちいち踏んでいられないと思いましたが、 挙げられている例は「オゾン層を守るために何かできないか」から「キャットフードが切れそうだ」まであります。クリスマスカードプレゼント、や年賀状も直前になってあわてて用意するよりゆとりを持って準備すると、気の利いたメッセージも浮かびます。
親の家の片付けをずっと先延ばししていたのは、大量の母の服、父の仕事の資料、納戸に押し込められた贈答品を思い出すたびに気持ちが重くなって心の中から追い出していました。「実家の片付け」というファイルを作って何をリストに入れるかを検討。一人でゴミを捨てるのは到底無理だから、業者に依頼することにしました。ネットで検索して実家から近くサイトがちゃんとしている業者を選び、問い合わせフォームを送りました。折り返し連絡があり、次の帰省に合わせて見積もりにきてもらうことに。母が亡くなって1年半以上過ぎて、やっと動き出しました。ぐずぐずしたのは恥ずかしいけれど、何もしないで悶々としていたのよりはずっといい。これが脳のメモリを回復させるということでしょうか。
そして「訪ねたい場所」「始めたい趣味」「読みたい本」「観たい映画」など楽しいこともリストにあります。訪ねたい場所にメキシコというファイルを作り、ラテン文学をどういう順番で読んでいこうかリストを作ります。
軌道に乗るまでは時間がかかりそうですが、GTDを自然に使いこなすようになると「クルーズコントロール(自動的に物事がうまくいっている状態)になるそうです。
GTDの目標「水のような心」が実現出来たら、どんなにすばらしいでしょう。