翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

伊豆「やすらぎの里」の飢えの記憶

海外旅行は無理でも、感染対策に気を付けた個人の国内旅行なら許される雰囲気になってきたように感じます。

秋の到来で温泉も気持ちいいだろうし、水風呂とサウナのある温泉の情報を集めるようになりました。

 

東京から近い熱海や伊豆もいいということで思い出したのが「やすらぎの里」。

 

y-sato.com

ここには二度、滞在したことがあります。

最初は10年以上も前、高原館の週末2泊3日。断食ということで不安もあり、親友を誘って二人で行きました。

なんとか無事にを終了したので、2011年の春に本館で1週間の断食コースを一人で予約しました。3月に東日本大震災が起こり、こんな時期に不謹慎かと思いましたが、決行しました。

 

その後は荻窪の友永ヨーガ学院の通い断食を二回。特別な施設ではなく、日常生活を送りながら、断食ができるかどうか自分を試してみたかったのです。 

 

bob0524.hatenablog.com

 

ここまでやると自分のパターンがわかってきました。

生活が乱れ、体が重くなり、アルコールも飲みすぎる。これではだめだと一念発起して断食プログラムに申込む。あまりのつらさに、断食を始めたことを激しく後悔。しかし、小心者で見栄っ張りなので途中でやめることができない。終わってみれば、ぐっと体が軽くなり断食をやってよかったと思い、食生活も気を付ける。

そのまま持続できればいいのですが、日がたつにつれて元の木阿弥に。そしてまた同じパターンを繰り返してきました。

 

久しぶりに「やすらぎの里」のサイトを見てみると、本館、高原館に加えて養生館と3施設に増えていました。リピーターが多いし、断食はつらくても、雰囲気はとてもよく気持ちのスタッフばかりですから、発展しているのでしょう。

本館として新しい施設ができ、それまでの本館が養生館となったようです。そして養生館には、屋上にサウナと水風呂が設置されているではないですか! ここの屋上の露天風呂はとても気持ちよかったのをおぼえています。

行きたいけれど、断食しながらサウナと水風呂は危険だし、外気浴でととのうこともむずかしいでしょう。断食中は「おなかが空いた」以外には考えられないのですから。思い悩んでいる人には断食は効果的ですが、交互浴には不向きです。

 

しかし「やすらぎの里」には、断食コースに加えて、食事が出るコースもあります。10時の朝食と6時の夕食の1日2食。メニュはご飯、漬物、野菜と魚か豆で1食500キロカロリー。ここの食事はとても丁寧に作られています。

 

だったら食事付きで1週間、行ってみようと思い立ち、すぐに予約しました。お値段は温泉旅館並みで「ご馳走もでないのにどうしてそんなに高いの?」とよく言われますが、それ以上の価値があります。

予約後、「10月1日からGo Toキャンペーンの対象になった」とメールが来ました。通常の旅行ではないので考えさえもしていなかったのですが、なんとラッキーなことでしょう。

 

「やすらぎの里」はおひとり様も多く、わざわざ伊豆まで断食に来るようなタイプですから、すぐに打ち解けて楽しく交流できます。本もドラマも食べ物のシーンがあると集中できず、断食仲間との会話で時間をやり過ごすことが多かったからです。

しかし、食事ありのコースを選んだ今回は、断食中の人には近づかないほうがいいでしょう。

 

というのも前回の断食コースの強烈な思い出があるからです。

「やすらぎの里」の食事会場は、断食コースと食事ありコースで席を分け、衝立で視界をさえぎっています。味噌汁1杯、スムージー1杯のみという人の隣に、低カロリーとはいえ食事を摂る人がいては目の毒だからです。

 

ところが前回、食事コースの方が、自分のお盆を持って私の隣に移動してきたことがあったのです。温泉かどこかで話をしてその続きがしたかったのでしょう。私は回復食の途中で薄いおかゆと味噌汁が出ました。少し食事らしくなったので、とてもうれしかったのですが、となりで普通食を食べられたらたまりません。断食でここまで意地汚い人間になるのかと愕然としました。

 

プリモ・レーヴィの『これが人間か』の一節を思い出しました。断食中に食欲をなくすために読む本です。

強制収容所に入れられたレーヴィはトリノ大学を最優等で卒業した化学者だったので、

研究所に選抜されます。過酷な肉体労働から解放され、暖かな屋内にいて、だれからもなぐられることもない天国のような状況だとレーヴィは書いています。しかし、寝泊りしているは収容所ですから、飢えは続いています。

研究所にはアシスタント作業を担当するドイツ人とポーランド人女性も働いていました。清潔で美しい服を着た優雅で上品な女性たち。彼女たちは収容所から派遣されたレーヴィの目の前でジャム付きのパンを食べます。飢えた者にとって、どれほど苦痛で残酷な光景であるかなど想像せずに。

 

たかだか数日の断食で、強制収容所まで思いを馳せるなんて大げさですが、食は人間の根源的な行為です。できればまた断食に挑戦したいのですが、いつになるかわかりません。

 

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宮城県秋保温泉「佐勘」の朝食。海老とアボカドサンドに野菜中心の品を選んだはずが、おかわり自由のビールサーバーが! 朝から一杯、ひっかけました。

「やすらぎの里」の最終日、参加者の一人が「家に帰ったらまた食生活が乱れてしまいそうです」と心配していたら、大沢代表が「その時はまたここに来たらいいじゃないですか」と大らかに答えていました。

暴飲暴食と節食を行ったり来たりしながら、ちょうどいい地点を見つけたいものです。