熊野古道を滝尻から近露まで一緒に歩いたジェシーとケイト。近露での宿は別々だったので、歩き終えて解散。午後5時を過ぎて徐々に暗くなってくるし、10時間近い歩行でくたくたに疲れています。名残惜しいけれど、あっさりした別れとなりました。
翌日は雨だったので、歩くのをあきらめてバスで熊野大社本宮へ。お参りのあと、世界遺産熊野本宮館へ行くと、前の晩に聞いたクイーンズ・イングリッシュが。近露の民宿で一緒に夕食と朝食を楽しんだイギリスのご婦人二人組、サンドラとリンダです。熊野本宮館の前が各地へ向かうバス乗り場となっているので、こういう再会は大いにあり得ます。バスを待つ間、あれこれ語り合い、温泉行の同じバスに乗りましたが、彼女たちが泊まるのは湯の峰温泉で、私は川湯温泉。先にバスを降りる二人とハグして別れました。
滝尻から近露まで10時間歩いたので、熊野古道歩きはもういいかと思ったのですが、川湯温泉で泊まったホテルには、中辺路のハイライトである発心門王子まで送ってくれるシャトルバスがありました。発心門から本宮までは3時間ほどで、それほどハードな山道ではありません。せっかくだから、歩くことにしました。
熊野古道というと、こういう道をイメージしがちですが、ごく一部。滝尻から近露のルートはアップダウンが多く、滑ったり転んだりしやすい難所だらけでした。登山靴にトレッキングポール必須。ガイドブックでは上級者向けとなっています。
最初は一人で歩くつもりでしたが、ジェシーとケイトと3人で歩いて正解でした。
ケイトは東京の中学校で英語を教えた経験があり、日本語もかなりできます。休憩して再び歩き始めるときはジェシーが「レッツ・ゴー」、ケイトが「行こう、行こう」と声を掛け合い、難所では「ウイ・キャン・ドゥ・イット」と「できる、できる」。とても励まされました。
歩くのがつらくなって、バンコクのヴィッパサナー・ファウンデーションで習った「歩く瞑想」を思い出しました。
「ねえ、ウォーキング・メディテーションって知ってる?」と二人に声をかけると、ジェシーが「京都の天台宗のお寺で習った」と言います。ジェシーは仏教徒です。「比叡山に登ったの?」と聞くと、イエスという答えが。
ケイトから「そのウォーキング・メディテーションってどうやるの?」と質問。
「あとどれだけあるのか、何時に宿に到着するだろう、足が疲れたとか、そうこうことは一切考えず、歩くことだけに集中する。足を持ち上げる、動かす、着地。 リフティング、ムービング、スレッディング」
しばらく神妙に歩いたものの、平坦な道に戻れば、またおしゃべりが再開。
「王子ってプリンスって意味じゃなかった?」とケイト。「ここではプリンスじゃなくて、祈りを捧げる場所という特別な意味になる」と説明すると、「じゃあ、プリンス・チャーミングはいないわけね」とジェシー。
プリンス・チャーミングは白雪姫やシンデレラの王子様。日本語では「白馬の王子様」です。
近露の民宿の女将さんには「7時間半かかります」と言われた道を10時間かけて歩いたのは、3人でおしゃべりしながら寄り道だらけだったから。庭の花に見とれていると、家の人に「どうぞ、中に入ってごゆっくり見ていってください」と声をかけられて、じっくり見学。海外駐在を重ねてリタイア後、ご夫婦で移住したそうです。世界遺産の中に住んで世界中の人が家の前の道を歩くのを見るのはさぞかし楽しいことでしょう。
「まるで女子大生の3人組みたいに楽しそう」と言われました。遠目でそう見えるのは、私の精神年齢の幼さからでしょう。ジェシーとケイトは、私が日本語学校で教えた日本オタクの留学生の典型的なタイプですが、教師と生徒ではなくフラットな関係のほうがずっと楽しい!
3日目に泊まった川湯の温泉ホテルのシャトルバスは、発心門王子に行く前に熊野大社本宮近くのコインロッカーで停車。バックパックを預けられるのなら、ありがたい。
同じバスに乗っていたイギリス人カップルが苦戦しています。「コインを入れて、鍵を回して、鍵をキープするのを忘れないで」と声をかけます。
「コインが足りないなら、どうぞ」と百円玉を差し出すと、奥ゆかしいイギリス人らしく「いや、それは…」と遠慮します。「日本のことわざで『旅は道連れ、世は情け』っていうから、旅人はお互い助け合わないと」と説明しましたが、本音はさっさと発心門まで行って歩き出したいから。
そうこうしているうちに、ジェシーとケイトが通りかかります。なんという偶然! イギリス人カップルのおかげです。湯の峰温泉のゲストハウスで再会したそうです。
「世界は狭い!」と3人で盛り上がっていると、ホテルのシャトルバスの運転手さんが写真を撮ってくれました。街中になるとマスクをしてしまう、いかにもジャパニーズの私。