カズオ・イシグロを読むようになったのは、彼がボブ・ディランとザ・バンドの大ファンだと知ったから。
ディランだけでなく、ザ・バンドを並べたところにぐっときました。フォークからロックに転向したディランが大ブーイングを浴びていた時代、バックバンドを務めたのがザ・バンドです。
「ザ・バンド」というバンド名は、ディランとウッドストックに隠棲していた頃、地元民から「ボブ・ディランと一緒にいるバンド(ザ・バンド)」と呼ばれたことに由来します。私はザ・バンドと一緒にやっていた頃のディランの曲が一番好きです。
ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロは「ボブ・ディランの次に受賞なんてすばらしい」と喜んだとは、作家よりミュージシャンになりたかったというのは本当だったのでしょう。
『日の名残り』を読んだとき、真っ先にボブ・ディランの「ガッタ・サーヴ・サムバディ Gotta serve somebody」が浮かびました。
Gotta Serve Somebody Bob Dylan
「大使、世界チャンピオン、社交界の名士、実業家、泥棒、ドクター、チーフ…、あなたが何であろうが、誰かに仕えなければいけない」という歌詞です。
これでもかとばかりに、単語を羅列してくるディラン節。
サビのフレーズ。
Well, it may be the devil or it may be the Lord
But you're gonna have to serve somebody.
そう、悪魔かもしれないし、神かもしれない
しかし、あなたは誰かに仕えなければならない
『日の名残り』の主人公スティーヴンスは執事でしたが、スティーヴンスの主人のダーリントン卿にしても、国に仕えようという意識があったからこそ、結果的に悪魔に仕えることになったわけです。
どんな立場であろうと、生きている限り、誰かに仕えなければいけないと、ディランが歌い、イシグロが書く。
いかにも執事がいそうなイギリス様式の旧門司三井倶楽部。現在、内部は観光案内所とレストランになっています。
カズオ・イシグロの『日の名残り』は小津安二郎の映画からも影響を受けています。
すべての 名作はどこかでつながっていくものなのでしょう。
そしてカズオ・イシグロの『私を離さないで』。
作中に出てくる歌詞とは違うし、雰囲気もまった異なりますが、ディランとバエズのデュエット"Never Let Me Go"をつい連想してしまいます。おなじみの投げやりな歌い方のディランに、バエズが圧倒的な歌唱力で声をかぶせています。