翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

アウトプットの瞬間芸

話すより書くほうが好きで、同じことを伝えるのでも、表現に懲りたい。
だからライターという職業を選んだはずなのに、50代にして日本語教師の資格を取ることに。模擬授業を行う演習に進んで、自分にはまったく向いていないことがわかったけれど、手遅れです。今さら、やめられません。
しかし、日本語講師養成講座に通ったからこそ、フィンランドのヘンリク君を3週間ホストできたし、ウラナイ・トナカイでの「はじめての方位取り」講座をお引き受けすることになりました。これだけでもう十分、通った甲斐があったというものです。

前回、紹介した『東大名物教授がゼミで教えている人生で大切なこと』。

伊藤元重先生は、名物教授と呼ばれるだけあって、きっと授業も上手なんでしょう。
「学生の反応を見ながら、話し方を変えていく」と書いてあります。学生が目を輝かせて聞いているか、つまらなそうな顔かで授業のペースを変えるそうです。
人前で話すことに慣れていないと、これがむずかしい。教案に書いたことをすべて話そうとして、学生の反応が目に入らなくなります。

伊藤先生は、こんなふうに学生のことを気にかけているわけですが、講演は、「頭の中を整理する上で非常に有益な機会」だそうです。

講演ではできるだけその場で頭に浮かんできた言葉で話をするようにしている。聴衆の目を見ながら、反応を感じながら、話の内容を整えていくのだ。この聴衆との微妙な緊張感が重要である。
<中略>
講演の前にも想定しなかったようなフレーズがときどき出てくる。ディスカッションの中で出てくる瞬間芸のようなフレーズだ。これが後で思考を進めていく上で非常に重要な鍵となることが多い。一方向の行為のように見える講演で、講演者である私は多くのことを考えるきっかけをもらっているのだ。

もちろん、伊藤先生はしっかり講演の準備をしていることでしょう。その上で、聴く人とのインタラクション(相互作用)を通じて、思考を発展させるのです。

学生たちから見れば自分たちは先生から教えてもらっているという感覚を持っているかもしれないが、私から見れば、学生たちと議論することによって自分の理解がさらに深まったのではないかと考えることが多い。学生との議論の最中に、突然、重要なひらめきに出会うこともある。

今回、玉紀さんからの提案で、トナカイの講座をお引き受けしたのは、この箇所を読んでいたからです。

私にとって方位(九星気学)は、原稿依頼が最も多いジャンルです。長年、書き続けているうちにマンネリになって「これは前にも書いたかも」と思うこともしばしばです。
書くのではなく話すこと、それも聞いてくださる方との相互作用によって、「アウトプットの瞬間芸」が生まれるのではないか。そんな期待もあります。

クリック一つで膨大な情報が手に入る今だからこそ、人と人が同じ場を共有する機会を大切にしたいものです。そこに生じる「微妙な緊張感」が「重要なひらめき」をもたらします。まさにユングのいう「化学反応」が起こる瞬間です。

The meeting of two personalities is like the contact of two chemical substances:
if there is any reaction, both are transformed.
(二つの人格の出会いは、化学物質の接触に似ている。何かの反応が起これば、両者ともに変容する)


八方位は易の八卦に通じます。「山水蒙(さんすいもう)」の蒙は啓蒙の蒙で、教育の卦です。山に水が流れて地中を潤すイメージ。水は知恵の象徴です。