カウンセラー、占い師、あるいは親、友人からアドバイスをもらった時、「頭ではわかるけど、腑に落ちない」と感じることがよくあります。ストレートに伝えるだけではだけで、プラスアルファが必要です。
その一つがメタファー。
前回「とりあえず来たバスに乗る」とか「バスを待つ時間を楽しむ」とか、転機をバスにたとえてみました。ブログを通して知り合ったtoikimiさんは「バスを何台も見送った」、北見花芽さんは「バスが来ないから次のバス停まで歩いている」とのこと。
同じ年に日本に生まれたら、同時期に学校というバスに乗り込みますが、卒業後の展開は千差万別。それでもいつかは、冥土行きのバスに乗らなくてはいけません。
東洋占術で使う十二支は、本来は植物の生育のサイクルを季節と重ね合わせたものです。それでは伝わりにくいということで、ねずみや牛といった動物が採用されました。そして十干は陰陽五行の10パターンを樹木や太陽、山などに置き換えています。メタファーは心に伝わるのです。
6月から配信開始となったネットフリックスの『クィア・アイ』。
生き方を変えるために、5人のゲイが寄ってたかって力を貸すリアリティ番組です。シーズン5の第7話でメタファーが効果的に使われていました。
3人の娘を育て、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の夫を支える48歳のジェニファー。ALSは日本でも患者の女性から依頼を受けて薬物を投与した嘱託殺人が報じられた難病です。
ジェニファーは自分のことは後回しで、家族に尽くしてばかり。娘が「手伝おうか」と声をかけても、「大丈夫、ありがとう、必要ないから」と一人で忙しくしています。もともと専業主婦志望で、PTAの役員やチアのコーチもやったという”スーパー・マム”。夫のジムがALSを患い、8年間にわたって家庭で介護を続けています。
この数年間、自分で服を買ったことがなく人からもらったものばかりというジェニファーにファッション担当のタンは本当に似合う服を試着させ、ルーツであるポーランドの伝統料理をアントニーと一緒に作り、ジョナサンは時間をかけてセルフケアする喜びを教え、ボブは残り少ない夫婦の時間を充実させるために自宅を改造。
カラモはジェニファーと森をハイキングします。
「私はアウトドアの活動向きじゃない」というジェニファー。「忙しくてそんな暇はないし、あれこれ考えてしまう時間は好きじゃない」
カラモは「忙しくすることで自分を守ってきたんだ、自分の感情を抑えるために。現実はつらいからね」と話しかけます。
ここでジェニファーの感情が表出。
「夫を失うのが怖い。でも、どうしようもない。ただ長いお別れをしているような気分。私は彼を救うことができないから」と涙ながらに声を絞り出しました。
「夫のジョンともっと気持ちを伝え合い、未来が怖くても今という瞬間を家族と楽しんだら」とアドバイスするカラモ。
ここでカラモがメタファーを使います。
二人が歩いてきた小径を指してこう言います。
You can look back on the path and say,
"I walked that and it was fun."
来た道を振り返って「楽しく歩いてきた」と言えるよね。
次に二人の前に続く道を指して。
I might not know what's going to be happening up there.
But I do know that, that was excellent."
この道の先になにが起こるのかわからない。
でもこれまでは最高だった。
そして、ジェニファーに発言をうながします。
That's beautiful.
That's scare as hell.
But I can do it.
(来た道を指して)すばらしかった。
(続く道を指して)あっちは地獄みたいに怖い。でも歩ける。
ジェニファーが現実を受け入れた瞬間です。
占いやカウンセリング、そして文学、ドラマに使われるメタファーは時として心にダイレクトに響きます。
回転木馬を見るたびに村上春樹の『回転木馬のデッド・ヒート』を思い出します。勝った負けたと有頂天になったり落ち込んだりしますが、同じところをぐるぐる回っているだけかもしれません。